日本歯科評論4月号
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 本誌2018年1月号から2020年12月号までの3年間,さらに「補遺」として2021年6月号と8月号の合計38回にわたって掲載した前回の連載「口腔病理医からみた 歯科クリニックで見逃してはいけない口腔粘膜疾患」は,内容に加筆訂正を加えた1冊の書籍として2022年3月に発表することができました.連載中から多大なご支持をいただいた読者の先生方に,改めて感謝いたします. 日常診療で口腔粘膜に注目し,歯科クリニックで経過観察・院内検査・専門医への紹介を行う場合,その判断ポイントも大切です.歯科クリニックで手軽な手段として近年注目されている液状化検体細胞診(LBC)についても,前回の連載では有効な場合やあまり有用でない症例なども取り上げました.そして多くの先生方からの過分な評価とともに,「内容が難しい」などのご意見もいただきました.筆者としては「より多くの先生方に向けたメッセージを……」とも思っていたため,かえってそれが難解な部分を多くしてしまったのかと振り返って思います.これらの貴重なご意見を踏まえ,どのように修正をしていけばよいかと考えていた折,編集部から再度の連載の打診があり,お引き受けすることにいたしました.今回の新シリーズでは,この点を少しでも改良できればと考えています. かつては歯科の教育や臨床の対象が異なっていたため,あまり問題にはなっていなかったようですが,近年の多岐にわたる粘膜疾患や,がんなど重篤な疾患の増加で,歯科クリニックでのこれらの病変の早期発見は避けて通れない重大な領域となりつつあります.残念ながら歯科クリニックに限らず,歯科一般の口腔粘膜疾患への関心はいまだに高いとはいえません.他科においても同様のように思われます.そして稀な疾患の患者さんも,高次医療機関に限らず歯科クリニックにも受診されることが考えられます.1例ごとの注意深い観察や時宜を得た対応は,高次医療機関に限らず,歯科クリニックでも同様と思います.「治ったから」「紹介したから」で終わりではなく,一連の経過をreviewする,今一度見直ししてみることも大切です. 口腔病理医である筆者も,多くの症例での反省も含め,なるべく全体を俯瞰するよう心掛けてきました.初診の印象とまったく異なった経過を示す症例や,治療に対する反応の違いなど,それこそ千差万別で,同じ症例はないといっても過言ではありません.しかし,症例ごとに,そして似たような症例が積み重なると,全体がみえてくるような経験もしてきました.経験する1つひとつの症例が教科書です.多くの症例から得られる知識を共有することができれば,口腔粘膜疾患への関心もより大きくなり,苦しむ患者さんも少なくなるのではないでしょうか. 今回のシリーズでは,前回シリーズでも大切と思われた疾患ごとの「初診」からそれぞれの「経過」を中心に,歯科クリニックでの診断と対応がどうすれば“Good Choice”となるか,解説していきたいと思っています.本シリーズが,先生方や歯科医療スタッフの方々の毎日の診療のヒントになれればと考えております.前回シリーズに続き,読者の先生方のご意見もぜひお願いできればと思います.2023年3月 田中陽一日本歯科評論(通刊第966号) 5新シリーズ開始にあたって

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