デンタルダイヤモンド 2025年6月号
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32 近年、歯科治療におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の進歩は著しいものがある。当初はデスクトップスキャナーで石膏模型をスキャンして、そのデータを元に歯やフレームをデザインし、ミリングマシーンで削り出す流れが、一般的な歯科治療におけるDXであった。その後、DXが著しく進んだ要因は、IntraOral Scanner(IOS)の登場ではないだろうか。 実際に、クラウン・ブリッジやインプラント治療など歯の治療に関しては、IOSで口腔内を光学印象採得して得られたデータを元にソフトウェア上でCADデザインを行い、ミリングマシンで削り出して完成させる、モデルレスの歯科補綴物作製が可能になっている。 また、すでに少子高齢化や関連する歯科技工所および物流企業のDXの遅れに起因する「物流の2025年問題」に直面している現状がある。具体的には歯科技工物の遅配や配送コストの増大による診療への影響が実際に起きている。そのため、歯科医院のDXは喫緊の課題であり、IOSは歯科医院のDXにおいて重要な先鋒となる器具の一つである。 世界でのIOSの普及率は50%を超えるとされているが、わが国においてはいまだ15%程度との報告がある。矯正歯科分野ではIOSは必需品になりつつあるが、補綴分野においてはまだ活用が進んでいない。また、残念ながら義歯治療の分野では、クラウン・ブリッジと比較してDXが進んでいない。いまだにハイドロコロイド印象材やシリコーン印象材を使用し、採得された印象に石膏を注入して作業模型を作製しているのが現状である。 歯科分野において、IOSが補綴装置の作製に用いられるようになったのは、1970年代後半~1980年代初頭である。それから45年、IOSの進歩はクラウン・ブリッジやインプラント上部構造に留まらず、義歯の分野でも発展してきた。しかし、その主体はコンプリートデンチャー(総義歯)であった。パーシャルデンチャーでは、以下のような課題があるからだ。•クラスプ部と床部の素材の違い•歯と軟組織の被圧変位量の差•パーシャルデンチャーの3大要素(支持・把持・維持)をクラスプと床で分担するための設計に対する要望を、歯科医師・歯科技工士・患者の間で擦り合わせるのが困難 したがって、すべてをデジタルで作製するパーシャルデンチャーは、コスト(時間・費用)の面でも精度の面でも、いまだアナログには及ばない。 いま求められているのは、デジタルの強みとアナログのよさを相互に補完し合い、院内とラボの連携を強めながら患者満足度を向上できる、「三方よし」のハイブリッドシステムである。これを構築することで、2025年問題から2040年問題へと続くわが国の社会構造のなかでも、歯科に求められる重要な役割を果たせるであろう。さらには、わが国における深刻な歯科技工士不足に対して光明をもたらすのではと期待している。 本特集で紹介するデジタルパーシャルデンチャーシステムは、現在、最も筆者らの要望 歯科治療におけるDXの流れ デジタルツールを使った パーシャルデンチャーとは?

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