直接覆髄,部分断髄,全部断髄後の成功率に自信がありません.仮封で数か月様子を見てから最終修復してもよいでしょうか?Q74できるだけ早く最終修復にしたほうがよいです.直接覆髄だけでなく,間接覆髄においても仮封期間は歯髄壊死のリスクを高めることがわかっています.A74 たとえば,MenteらはVPT後に最終修復を行うまでの期間が2日未満かどうかで歯髄壊死のリスクがオッズ比0.24で統計的有意差があることを報告しています93[なお,オッズ比(Odds Ratio)はある要因が結果に与える影響の大きさを示す指標で,値が1より大きければリスクが高まり,1未満なら低くなることを意味します.ただしオッズ比はリスク比(Risk Ratio)とは異なり,「リスクが3倍」とは直接解釈できません.とくにイベントの発生率が高いときは,オッズ比がリスク比よりも大きく見積もられる傾向があるため,過大に評価しないよう注意が必要です].つまり,最終修復までの期間が短いほど歯髄壊死のリスクが下がるため,なるべく早く最終修復を行うほうがよいことを示唆しています.これは露髄した歯髄に対するVPTだけでなく,間接覆髄においても同様の傾向が報告されています.部分的なう蝕除去を行い,仮封のまま数か月経過観察をしてからリエントリーして最終修復を行う「ステップワイズエキスカベーション」と,部分的う蝕除去後に即日で最終修復を行う方法とを比較した研究において,後者のほうが予後が良好であることが報告されています. これは露髄した歯髄を保存する処置においても,できるだけ早期に最終修復へと移行することが治療成績の向上につながることがわかっています.多くのVPT関連の臨床研究では,VPT実施の当日か翌日には最終修復を完了するというプロトコルが採用されています.そして,治療から最終修復までの期間が延びた症例では,歯髄壊死のリスクが有意に高くなることが報告されています.また,Menteらは使用する覆髄材料が水酸化カルシウムかMTAかよりも,最終修復までのタイミングが歯髄の治癒に大きな影響を与えることを示唆しています.したがって,繰り返しになりますが,VPT後は可能な限り速やかに最終修復を行うべきであると筆者は考えています(図83,84). ただし,どうしてもVPT直後に最終修復を行うことに不安がある場合や,何らかの理由で即時の最終修復が難しい場合には,一時的にコンポジットレジンなどの接着性と封鎖性に優れた材料で強固な暫間修復を行うか,図83 VPTを行った後に仮封のまま数か月間経過観察を行うことは,マイクロリーケージを介して細菌感染が生じるリスクがあり,結果として歯髄壊死の可能性が高まると考えられる. 翌日最終修復仮封で経過観察最終修復術前VPTと仮封歯髄壊死リスク低歯髄壊死リスク高CHAPTER4 治療127
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