チェアサイドで見る臨床口腔解剖学
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PART6顎関節ACBD関節円板後部結合組織関節包(前方)関節円板上面図 4  A:閉口時,B:開口途中,C:開口途中,D:開口時.左側顎関節部のやや前方で前顎断し,前方から観察された関節包をメスで切除していく(A).関節円板前方を包む関節包を切除すると,関節円板の上面が観察できるようになる(B).さらに,関節包外側部を外側靱帯とともに切除し(C),前方から関節円板の後方を観察可能な状態にした(D).関節円板後部結合組織は,関節円板上面の構造とは異なり,赤い血管網が分布していることがわかる.この領域には耳介側頭神経(感覚神経)が広く分布している.関節包(外方)骨の機械的ストレスをクッションのように緩衝している(図 1).また,関節円板は骨と骨の間の座布団のような構造ではなく,下顎頭全体を外側極・内側極を越えて野球帽のようにすっぽり包むような構造を呈している(図 2 ).さらに,関節円板前方では外側翼突筋の一部筋線維束が付着し,この付着様式によって外側翼突筋の収縮による下顎頭の動きと関節円板の動きが協調する(図 3 ). 下顎頭の上面は関節面となっており,滑らかに動くために軟骨で覆われている.この関節軟骨は,骨が直接こすれて傷つかないように保護し,衝撃を和らげる役割を担っている.関節軟骨の主成分は,おもにコラーゲンとプロテオグリカンなどで構成されており,コラーゲンは軟骨の強度を保つ役割を担っている.下顎頭を覆う関節軟骨は新生児から10歳前後までは,一般の関節頭と同様に硝子軟骨であるが,成人では非定型的な軟骨組織となる.これを「顎関節の関節軟骨は,硝子軟骨から成人では線維軟骨に変化する」とするかについては議論がある.しかしながら,成人の下顎頭における関節軟骨のⅡ型コラーゲンを主成分とする硝子軟骨とは異なり,主成分はⅠ型コラーゲンである.よってこれまでの議論を総合的に考えると,ヒト顎関節の関節軟骨は成長から加齢の段階で,硝子軟骨から線維軟骨様組織へと変化するとしたい.また関節面直下の緻密質(皮質骨)は,他の部位と比較すると薄いのが特徴である. 顎関節は,関節包で包まれている滑膜性の関節である(図 4 ).この関節包は結合組織の線維膜で,下顎窩の周囲から関節突起の周囲に付着している.さらに,関節包の内面は繊毛様のヒダをもつ滑膜によって覆われ,関節の円滑な運動のための滑液を分泌している.また,関節円板中央狭窄部はコラーゲン線維の豊富な密生結合組織に分類される.さらにこの線維は束となり,さまざまな方向へ走行している.これは顎運動の際に,関節円板にかかる力を分散させる効果をもつ.83関節包を段階的に切除して関節円板を前方から観察(左側)

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