本書において,テクニックに関して解説してきた章では,これまで静翻訳:山﨑 治133的咬合すなわち定義された下顎位において上下顎の歯がどのように咬合するかの記録を紹介してきた.一方で,動的咬合は機能時またはパラファンクション時に下顎が動いている状態を対象とし,下顎の動きのなかで上下顎の歯がどのように接触するかを示すものとなる.歯科技工所用に動的咬合を記録することで,補綴装置の設計や製作の精度が向上し,口腔内での咬合調整を大幅に軽減,あるいは不要にすることが可能となる.歯科医師と歯科技工士間の実際的なコミュニケーションを行ううえで,動的咬合と機能的運動範囲は同義としてよく,機能時の下顎運動を決定する下顎限界運動の範囲内に存在する三次元空間として定義される1.動的咬合における基本的なルールの1つとして,偏心運動時に前歯(切歯および犬歯)のみが接触するようにするという点が挙げられる(図10-1).より正確にいえば,上顎前歯(アンテリアガイダンス)の口蓋側形態は機能的運動範囲と調和し,臼歯が離開するように設計されている必要がある.下顎運動中の歯の接触(動的咬合)は,最終補綴装置において歯科技工所が再現する解剖学的形態の指標となる.したがって,プロビジョナルレストレーションにおいて機能性を十分に評価し,必要に応じて調整することがきわめて重要である(図10-2).機能的運動範囲の採得法10章
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