咬合の臨床応用
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咬合調整が重要な理由翻訳:前川賢治/乾 志帆子117しばしば最重要事項となる.多くの場合,第一の基準は患者がその咬合をどのように感じるかである.われわれは,患者が新しい補綴装置に慣れることができると確信するまで咬合紙で確認し,調整を続ける.しかし,そのやり方がつねに正しいとは限らず,不安定性の克服を顎口腔システムの適応力に頼らないように注意が必要である(補遺 D 参照).咬合に関しては,最良な状態と最悪の状態の差は非常に小さく,わずかな咬合接触でシステム全体が機能しなくなることもある.咬合調整とは,その“最良”と“最悪”の状態の橋渡しをすることである.咬合調整の目標は,(1)安定した咬合をつくる,(2)歯に加わる力を最小限に抑える,(3)適応の必要性を減らすという3点にある1,2.症例を用いて検討してみたい.45歳の女性が,別の歯科医院で美しい全顎的補綴修復治療を受けた後,2年以上にわたって咀嚼筋と顎関節の痛みが継続したため,筆者の歯科医院を受診した.この2年の間,前担当医はオクルーザルデバイスを提供し,新しく装着した補綴装置の調整を何度も試みたが,状態は改善しなかった.患者は持続する頭痛,筋痛と関節痛に悩まされ,心理士の受診を勧められるほど,彼女の意識はつねに歯にとらわれていた.その後,彼女は改善を求めて筆者の歯科医院を受診した.咬合調整法“咬合調整”は,直接修復や間接修復を行う際に,歯科医師にとって9章

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