AA第手術の実際 口蓋裂手術は,言語機能を含む正常な鼻咽腔機能と良好な顎発育の獲得を目的に行われる.したがって,軟口蓋部の再建は患児が言葉を発する前の時期が望ましく,生後1 歳から 1 歳 6 か月頃を目安に多くの施設で初回手術が実施される.Veau-Wardill-Kilner typeのpush-back 法は,硬口蓋部を含めて一期的な裂閉鎖が可能であるものの,硬口蓋部の広範な剥離と口蓋粘膜骨膜弁の後方移動の結果,硬口蓋部に形成される粘膜欠損と同部の瘢痕拘縮により術後中顔面形態や咬合関係への影響が懸念される 8 .この点に関して,Bardachにより報告されたtwo flap 法では,軟口蓋へのZ 形成術やintravelar veloplastyを組み合わせることで,硬口蓋前方部にraw surfaceを形成しない一期的口蓋形成術が可能で顎発育への影響も軽減されるとしている 9 . 一方,PercoによるZurichシステム10は 1 歳 6 か月頃に軟口蓋形成術を行い,就学前( 4 ~ 5 歳)に硬口蓋部を二期的に閉鎖することで術後良好な顎発育を 痕跡唇裂,粘膜下口蓋裂は,口唇皮膚あるいは口蓋粘膜の実質的な欠損をともなわない口唇裂,口蓋裂の一型であり,治療方針について統一した見解はない.形態異常や機能障害の程度,発達障害の有無などを評価して,外科的治療介入の適否,導入時期について検討することが望ましい.1 痕跡唇裂の場合 痕跡唇裂は, 不完全唇裂のうち赤唇下 縁 の 陥口蓋裂一次手術において一期法,二期法のいずれが望ましいか?痕跡唇裂や粘膜下口蓋裂に対する手術治療,治療時期の判断基準は?凹(ノッチ)以外に視認できる明らかな裂は認めず,得ることが可能であるが,硬口蓋部に長期間裂が残存することで正常な構音操作の習得の妨げとなる11.Rohrich,Nishioらは, 硬口蓋閉鎖を生後15~18か月時に短縮する早期二期的口蓋形成術にて,同様に顎発育抑制に対する有効性を報告している12,13.大阪大学歯学部附属病院でも1998年以降 Furlow 法を用いた早期二期的口蓋形成術を導入し,push-back法と比較して遜色のない言語治療成績と歯列弓幅径,長径について優位な治療成績が得られている14.硬口蓋閉鎖については,Perko 法あるいはVeau 法を用いるが,残存裂の形態により骨膜への侵襲を鼻腔側の閉鎖に必要な最低限度の剥離に留め,口腔側の閉鎖に口唇粘膜弁(Vestibular flap)を用いることで,さらに良好な咬合関係を得ることが可能となる15,16.口唇裂同様に,口蓋裂についても臨床病態は画一的ではないため,患児の全身状態や被裂形態の特徴を評価したうえで一期法,二期法を選択することが望ましいと考えられる.キューピッド弓頂点を構成する赤唇縁,人中稜部分の軽微な変形を呈する病態で,多くは軽度の外鼻変形をともなっている17.両側発生例(図 2)や片側例でも変形が極軽微な症例では,医療機関への紹介,受診が遅れることが少なくない.諸家による分類が報告されているが,変形の程度もさまざまであり明確に統一された治療方針はないものの,キューピッド弓頂点のつり上がりによる赤唇の変形,口輪筋の走行異常を含む白唇長の短縮の程度を指標とした重130章3Q 3Q 4
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