お母さんの健康であかちゃんも健康1.食べる機能の発達妊娠期にはバランスの良い食生活を心がけましょう!15 食べる機能(食行動)は乳幼児期から学童期にかけて劇的に発達していきます.正常な発達は,咀嚼や嚥下機能の獲得・成熟だけでなく,食べる意欲や食習慣の形成にもかかわり,正しい食生活行動の基盤を築くことで,生涯にわたる健康的な食生活を実践できる習慣へとつながっていきます.ただし,食行動の発達は,子ども自身の運動,認知,感覚,情動といった基本的な神経機構の発達に加え,親のかかわりや家庭環境,社会的環境,食品環境などのさまざまな生活環境因子が複雑に相互作用し影響を及ぼします.「口を開けて食べる」「よく噛まない」などの食べ方の問題に対して,いきなり口の動かし方の指導を始めがちですが,その前に子どもを取り巻く生活環境を評価し,適切な環境を整え,それに応じた支援策を講じることがとても大事な要素になってきます. では,食べる機能はどのように発達していくのでしょうか.食べる機能の発達は,胎児期から始まり,出生後の授乳期,離乳期,そして幼児期へと段階的に進んでいきます. 食べる機能の発達はすでに胎児期から始まっています.お腹の中にいる時期からすでに指しゃぶりをしたり,吸啜運動をしたりすることが明らかにされています1.胎児期に行うこの感覚刺激や運動が口腔機能の発達を促し,生まれてすぐに母乳を吸う能力へとつながっていくと見なされています.また,妊娠中の母親の食事が,その後の子どもの味覚や嗅覚の発達,食の好みに影響を与えるという報告2, 3がありますが,実際にそれがその後の味覚形成,嗜好にどの程度関与していくかまだまだ不明なことも多いです.しかし,胎児の栄養は,母体の栄養に依存します.そのため,安定した妊娠期には,過度に神経質にならない範囲でバランスの良い食生活を心がける必要があります. 胎児期からの準備により,出生直後から哺乳ができます.哺乳運動は,「探索反射」「捕捉反射」「吸啜反射」「舌挺出反射」などの原始反射よって営まれ,「舌挺出反射」は,乳首の適切な位置保持とともに,舌を前に出すことで授乳中に窒息を防ぐ役割もあります.これらの原始反射は通常4~6か月頃までに消失します.「舌挺出反射」は,固形物を誤って飲み込むのを防ぐ役割も担うため,その消失が離乳食開始のひとつの目安にもなります. 出生時の口腔には哺乳に適した特徴があり,前歯部の歯槽堤は閉口時に接触せず,顎間空隙が存在します.哺乳時には,乳首をしっかりと包み込むために上下の口唇が開き,舌が歯槽堤を越えて前方に突出させることで乳首をとらえ,舌を前後に運動させ哺乳するのが特徴です(図2).この嚥下様式を「乳児嚥下」と呼びます.乳児は安静時にもこの顎間空隙の間に舌を介在させることがありますが,発育過程における自然な姿です(図3). また,この時期は喉頭蓋の位置が高いため,気道CHAPTER1 口腔機能と口腔機能の発達に目を向けてみよう(1)胎児期:口腔機能の準備段階(2)授乳期(出生~生後5,6か月頃)
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