3 Ⅱ級不正咬合の治療⬅⬅⬅最大の固定(シミュレーション)実際の初回アライナー使用後の歯列治療開始時治療終了時治療開始後1年9か月、追加アライナー使用時の口腔内写真(6枚め/22枚中)。上顎中切歯に設置されたバイトランプにより臼歯を離開させ、その後アタッチメントで挺出して咬合させる。93追加アライナー 22ステージ(7日交換)・ 上顎両側臼歯の挺出・ 上顎両側第三大臼歯の排列◦下顎前歯のブラックトライアングルを軽減するためIPRを設定する◦抜歯部位のコンタクトを緊密にするため、フェイクIPRを設定する◦萌出してきた を、アライナーを用いて対合歯と弱めに咬合させる88初回アライナー 61ステージ(10日交換)・ 上顎臼歯のアンカレッジロスを防ぐ・ 確実に上顎前歯を後方移動する上顎前歯を大きく後方移動させることに成功し、88も咬合したことで良好なⅡ級仕上げとなった。一見すると治療前後で臼歯関係に大きな変化がなく、上顎は最大の固定が達成されたように見える。しかし治療前後のセファロトレースの重ね合わせで確認すると、上下顎ともに臼歯の近心移動が認められ、中等度の固定となっていることがわかる。実はアンカレッジロスによる上顎臼歯の近心移動とともに、Ⅱ級ゴムの効果で下顎臼歯も近心移動していたため、臼歯関係が維持されているように見えていたのである。このように、アライナー矯正治療では前突症例に最大の固定を設定することは難しい。ブラックトライアングルは、歯と歯肉との間に生じる三角形の隙間のことを示す。矯正歯科治療で歯を移動させることで隣在歯とのコンタクトの位置が変化することでも生じ、捻転をともなう叢生の改善や前歯の後方移動時に歯間乳頭が不足もしくは消退することで発生することが多い。初診時の歯冠形態によっても発生頻度が異なり、歯冠長が長く歯頚部が細い歯ほど発生しやすい5。改善策としては、IPRでコンタクトを面接触にすること、近遠心歯軸を変更して空隙を小さくする方法などがあるが、完全になくすことは難しい。歯頚部にダイレクトボンディングを行うという策もあるが、清掃性は悪くなる。なおブラックトライアングルの発生はシミュレーションソフトウェアである程度予測できる(右図)。患者は治療終了間際にブラックトライアングルの存在に気がつくことが多く、空隙の残存と受け止めてクレームにつながることがある。そのため、治療開始前に必ずブラックトライアングルが副作用のひとつとして起こりうることを説明しておく。追加アライナー治療結果 Clinical Point ブラックトライアングル追加アライナーの目的および方法◦ステージング(動的治療期間2年1か月)
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