マイクロデンティストリーYEARBOOK2025
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PART2PART3PART4PART1112特別寄稿(顕微鏡下鏡視,以下ミラー派)である.14別冊the Quintessence 「マイクロデンティストリー YEARBOOK 2025」 認知にまつわる伝統,経験までをも射程にいれて両派の主張の根底を探ることで,両者の深層に横たわる亀裂,いわば“破折”が可視化される.この“見える”化により,両派の相互理解は深まり,生産的な対話の機会も増えるはずだ.両派が交流することで,目下抱えている不協和は緩和し,両派の長所を生かした新たなアプローチの創出につながる展望も開けてくるのではないだろうか. 筆者の専門は文化史であり,視覚が人間の認識や表現にどのような影響を与えるかという問題意識から,“見る”という行為に強い関心を抱いてきた.その一端が,“見る”ことに好奇心を燃やす歯科医師・表茂稔先生の目に止まり,日本顕微鏡歯科学会学術大会(2024年)のシンポジウム「Microscopic Dentistryから顕微鏡歯科への道」におけるパネリストの一人として招かれることになった. 表先生は,マイクロ派・ミラー派の不協和の源が“見る”ことに対する歯科医師の意識の違いにあり,その違いを認知文化の視点から深堀りする必要があ対立する手法認知文化からの再考名古屋大学大学院名誉教授連絡先:〒464‐8601 愛知県名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院人文学研究科 E-mail:ssuzuki@nagoya-u.jp鈴木繁夫 歯科治療における歯科用顕微鏡の活用には,“見る”ことをめぐって異なった2つの潮流が混じり合っている(表1).1つは,従来からの流れである顕微鏡下直視(以下マイクロ派)で,直視で患部は十分に“見える”ので適切な治療が可能だと主張する.もう一方は,患部・処置を正確に“見る”ためには治療中にミラーの同時併用が必須という新しい流れ これら2派の相違は,一般的にはミラーをどう利用するかという使用法の違いとして捉えられている.しかし,この技術的な見方は表面的であって,両派の根本的な不一致を見落としている可能性がある.なぜなら,そもそも両派の違いは単なる個人的な好みや流儀からではなく,専門的な判断や経験の蓄積から生じているからだ.そしてこれらの判断や熟知は,いうまでもなく各派の認知方法や認知プロセスに深く根ざしている.ということは,両派相反の真因を突き止めるには,それぞれの派が依拠している認知伝統や認知経験にまでさかのぼって考える必要がある.はじめに顕微鏡下直視と顕微鏡下鏡視との“破折”-“見る”ことの2系統-

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