日本でインプラント治療が行われるようになって約40年が過ぎた。筆者(木原)は臨床にインプラントを取り入れて35年が過ぎた。その間さまざまな症例を経験し、最初の頃には気づかなかったことが少しずつ理解できるようになってきたと感じる。インプラントを用いる目的は遊離端義歯を避けるためという意識が強かったが、次第に天然歯を保護するためだと気づくようになり、欠損があるからインプラントを適応するのではなく、天然歯を守るためにどのようにインプラントを使うかを意識するように変化してきた。そして、長年にわたりメインテナンスを行うなかで気づいたのは、多くの症例でインプラントが残り、天然歯、特に無髄歯が抜歯に至っていくということである。 本稿では、焦点を「診断」「術後予測」「デジタル活用による明確な治療ゴールの設定」に置き、症例を供覧しながら整理したい。 患者は2005年初診時60歳の女性(図1-a〜c)。上下顎臼歯部は保存不可能であり、ブリッジが装着されていた88上顎前歯部もう蝕のため抜歯となった。1年後、臼歯部と上顎前歯部にインプラントを適応して治療は終了した(図1-d〜f)が、この時点で残存している無髄歯は何年もつのだろうか。患者にはそうしたことを術後によく話しておく必要がある。診断・治療計画としてはインプラントを用いた咬合再構成であり、患者の年齢を考えると、この時点で無髄歯をすべて抜歯してインプラント治療としないのが通常の臨床的対応であると考える。初診から19年後、一度にではないが無髄歯が抜歯適応となっていき、順次追加のインプラント治療を行った(図1-g〜i)。患者は今年80歳になる。最初の診断・治療計画立案を行う際に、どの歯が残りどの歯が抜歯に至る可能性があるのかを考慮してインプラントを用いることが重要である。 患者は2013年初診時64歳の男性(図2-a〜c)。もともとオープンバイトで前歯部のガイダンスがなかったことにより、臼歯部からの崩壊が起こっていた。患者の年齢から、将来の再治療が必要ないようにしたい。いま残せる歯はあっても、長年にわたりメインテナンスを行っていくことを考えれば、術後にいちばん安定した状態となるよう診断の時点で考慮するべきである。22本中20本の歯を抜去して、インプラントと総義歯を用いて治療を行った(図2-d〜f)。将来的に上顎総義歯の人工歯がはじめに診断症例1:最初のインプラント治療後に残存無髄歯が抜歯に至っていった症例症例2:再治療の可能性をなくすために治療計画を立てた症例シンポジウムⅢ1995年 日本歯科学院専門学校卒業2001年 オウセラム(米国)勤務2007年 株式会社ファインロジック代表取締役2016年 有限会社ファイン代表取締役FIDIコースインストラクター、大阪SJCDテクニシャンコースインストラクター1981年 大阪歯科大学卒業1982年 南カルフォルニア大学在籍1984年 奈良県生駒市にて開業日本臨床歯科学会理事、CSTPC主宰木原敏裕Toshihiro Kihara奈良県開業上原芳樹Yoshiki Uehara有限会社ファイン・歯科技工士インプラント治療における診断と補綴-Longevityを実現するためのチームアプローチ-
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