外科術式とlongevityから再考するインプラント周囲組織マネジメント
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 これまで、前歯部での抜歯が必要な部位へのインプラント治療を計画する際には、抜歯窩の歯槽骨の状態や初期固定を得るための骨量の有無などを評価し、抜歯即時埋入か、あるいは抜歯時にAlveolar Ridge Preservation(ARP)を行って待時埋入するかを検討してきた。しかし、2007年以降に、顎堤の吸収抑制のために歯根を利用するPartial Extraction Therapy(PET)の概念が提案され10、なかでも2010年以降にSocket Shield Technique(SST)が応用されるようになってからは11、12、即時か待時かの検討に加え、SSTが応用できないかを抜歯部位へのインプラント治療戦略として検討すべきであると考える(図1)。すなわち、唇側の歯根が健全な場合には、唇側の歯根の一部を抜歯窩に残置できないか診査し、唇側組織の吸収を抑制するために唇側歯根の歯根膜の能力を利用する治療戦略を検討する必要がある。 このことをふまえ、抜歯を行ってインプラントに置換していく場合の治療戦略のディシジョンツリーを提案する(図2)13。まず抜歯部位の唇側骨の健全性を、CBCT画像所見や浸麻下でのボーンサウンディングから、裂開(Dehiscence)や大きな開窓(Fenestration)がないか診査する。唇側骨が健全でない場合には、すべての歯根を抜歯し、抜歯窩の内側にARPを行うか、唇側骨の外側まで骨造成(GBR)を行い、オベイトポンティックを装着して6ヵ月以上待時した後にインプラントを埋入する14。一方、唇側骨が健全であれば、次に唇側骨の骨頂付近の厚みを診査する。Chappuisら2やCouso-Queirugaら3が示すように、唇側骨の厚みが1mm以 前歯部でのインプラント治療を計画する際には機能的な回復だけでなく、審美性の高い結果が求められる。そして、その審美的な結果が治療終了時に達成されるだけでなく、長期にわたり安定して維持されなければ、患者の期待を裏切ることとなってしまう。しかし、多くの研究者が報告しているように、抜歯後に生じる唇側組織の持続的な吸収は1〜6、前歯部インプラント周囲組織の安定を困難なものとしており、前歯部インプラント治療の成功の鍵はこの唇側組織の持続的な吸収への対応と制御に尽きるといっても過言ではない。さらに多数歯の連続した欠損の場合には、この唇側組織の吸収が連鎖して増幅し7〜9、より複雑な状況を呈するため、治療計画はより緻密なものが求められる。 本稿では前歯部多数歯欠損でのインプラント治療戦略を、インプラント周囲組織、特に唇側組織と歯間乳頭部の安定を得るための治療戦略に焦点を当て解説していく。28抜歯が必要な部位への治療戦略はじめにシンポジウムⅠ即時図1 抜歯予定部位へのインプラント治療戦略は、即時埋入か待時埋入かの検討に加え、SSTが応用できないかを検討すべきである。待時SST1992年 岡山大学歯学部卒業1996年 医療法人ナディアパークデンタルクリニック開業EAO認定医、Greater Nagoya Dental Meetingファウンダー、MID-G顧問、OJ理事、Academy of Osseointegration、日本口腔インプラント学会飯田吉郎Yoshiro Iida愛知県開業前歯部多数歯欠損へのインプラント治療戦略

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