図10 歯の移動開始後2年2か月の口腔内写真.上顎にフルサイズのHeat-Activated NiTiワイヤー,下顎に.021×.025のステンレススチールワイヤーが装着されている.ほぼ前歯の被蓋は改善,そして十分に上顎前歯のトルクが得られ,しかも臼歯部の咬合も安定している.TPAで上顎第二大臼歯のトルクコントロールをしている.図11 治療終了時の口腔内写真.治療期間は2年8か月であった.矯正装置除去と同時にGnathological tooth positionerを装着し,細部の微調整と装置にあらかじめ組み込まれているオーバーコレクションの除去が行われている.082特集 成人の過蓋咬合を考える 第Ⅰ部 スタディグループによる症例提示臨床家のための矯正YEARBOOK 2024ている(図8).③大臼歯関係はすでにⅡ級で上顎大臼歯のアンカレッジは重要であり,そのためにTPAと口蓋への歯科矯正用アンカースクリューにより上顎大臼歯のアンカレッジロスを防いでいる(図8, 9).④この症例では下顎の小臼歯を抜歯しない.Speeの湾曲があり,歯の叢生もあるので,第二大臼歯の遠心に歯科矯正用アンカースクリューを植立し,下顎前歯がフレアするのを抑え,また必要に応じてストリッピングを用いている.私たちが用いている矯正装置にはあらかじめ小臼歯,大臼歯部に遠心へのローテーションが装置に組み込まれており,ストレートのワイヤーを入れると前歯が簡単にフレアするのを防いでいる(図9).⑤円板転位が存在しているが,できるだけ安定した顎位を保持しつつ口腔内での咬合を確立している.そのことで将来のTMJでの負担を軽減させている.これ以上の円板転位を進行させることは患者が過去に右側でロックを経験していることを考慮する必要がある.そのためはに下顎頭の位置を安定させ,臼歯部での早期接触を防ぎ,前歯部でのアンテリアガイダンスが必要である(図10).
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