臨床家のための矯正YEARBOOK2024
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図1 歯周-矯正治療の原則.沼部幸博*,加治彰彦*,*1巻頭トピックス臨床家のための矯正YEARBOOK 20241.矯正力付与の前には歯周病の病原因子を排除する.2.矯正治療中,治療後もプラークコントロールの水準を維持する.3.歯周病を有さない患者との矯正治療への反応の差を十分考慮する.010Yukihiro Numabe, Akihiko Kaji*日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座代表連絡先:〒102‐8159 東京都千代田区富士見1‐9‐20*1東京都開業 半蔵門ファミリア矯正歯科連絡先:〒102‐0083 東京都千代田区麹町1‐6‐6 プルミエ麹町ビル3FOrthodontic Treatment in Adults and Periodontitis:A Fundamental Principles for Perio-orthodontic Treatmentはじめに歯周‐矯正治療の原則と目的歯周‐矯正治療の時期 歯列不正には歯周病への罹患前から存在する歯列不正と歯周病や習癖などにより引き起こされる歯列不正がある.とくに歯周炎患者ではその病態のステージが上がるほど,歯の動揺や位置移動による歯列不正が生じ,歯のフレアアウトなどの審美障害や発音障害,不正咬合により引き起こされる2次性咬合性外傷など,歯周組織の破壊促進などが生じやすくなる.よって患者の審美性回復への希望や病態改善の必要性から,歯周治療の一環として矯正治療が必要となることがある.そしてそれらは歯周病を背景とした歯列不正や外傷性咬合,歯周治療の遂行に必要な口腔内の環境改善を目的として行われる歯の動的移動治療であることから,歯周-矯正治療(perio-orthodontic treatment)と呼ばれる1. 本稿では最初に歯周病患者への矯正治療に関しての総論を述べ,次に症例を供覧する. 矯正治療の歯周組織に及ぼす影響や歯周病患者に対する矯正治療の考え方については,かなり以前から先人による明確な解答がある(図1)2〜7.歯周-矯正治療の目的は,歯列の改善によるプラークコントロールの向上と外傷性咬合の除去による歯周治療の的確な遂行を実現することと,それによる治療効果の向上,さらに歯周治療終了後の良好な長期的予後獲得である(図2).適応症と禁忌症についても理解する必要があり(図3),とくに治療で歯周組織の安定が得られた部位では矯正力は歯周組織に大きく影響しないものの8,歯周炎罹患歯は残存歯周組織の量が減少していることには留意し,矯正力は時として外傷力として作用する危険性も考慮し,付与する矯正力は歯の動揺度やデンタルエックス線画像上での歯槽骨の残存量などを十分に配慮して決める必要がある.また,矯正力の固定源が歯に求められない場合には,インプラントなどを利用することがあるが,いずれにしても良好なプラークコンロトール水準の維持が不可欠である. 治療開始時期に関しては,歯周治療の流れにおいて(図4),主に歯周病の病原因子の除去を目的とし成人矯正と歯周病歯周‐矯正治療の原則

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