1)はじめに2)NCCLの分類第 1 章 おさえておきたいNCCLに関する基本情報106図22h 根管内象牙質に対しシルクパウダーによるサンドブラストを行っているところ.③根面被覆術図22i 覆罩面をプロシルクで表面処理しているところ.図22j 支台歯を酸化アルミナ29µmによりサンドブラストしているところ.象牙質面はシルクパウダーを使用. 定義上NCCLは硬組織の欠損であるが,歯肉退縮が深く関与していることを本章6で示した.そのため,NCCLに対応する際には軟組織欠損にも考慮する必要がある.すべての症例でそこまでやる必要があるかは別問題だが,完璧に元の状態に戻すことを目指す場合は軟組織の増生も必須となる.審美的改善が主訴の場合は,硬組織欠損の修復だけでは患者が満足する結果とならない可能性がある.アブフラクション仮説が登場した1990年代には,軟組織に注意が向けられることはなかった.近年の歯周形成外科の進歩を受けて,かなり確実に退縮した歯肉を回復できるようになり,NCCLの治療選択肢に根面被覆術が入ってきた.根面被覆を用いた治療コンセプ NCCLをともなう歯肉退縮は,硬組織(歯質)と軟組織(歯肉)の複合的な欠損であり,さまざまな治療計画を立案する必要がある. NCCLをともなう歯肉退縮に対する治療方法に関して多くの研究とレビューを行ってきたSantamariaらのチームから,包括的なディシジョンメイキングプロセスのレビューが2021年に発表された1.本稿では,そのディシジョンメイキングプロセスを下敷きにして,筆者の実際の症例を照らし合わせながら,筆者の専門医としての臨床的考察も交えて概説する.日常臨床の意思決定の一助としてもらえれば幸いである. 2010年にPini-Pratoら2は診断と治療計画を結びつけるためにNCCLを以下の4つに分類した.A-: セメントエナメル境(以下,CEJ)が特定でき,歯根表面との段差が<0.5mm(つまりステップがない)A+: CEJが特定でき,歯根表面との段差が≧0.5mm(ステップがある)B-: CEJが特定できず,段差がない.B+: CEJが特定できず,段差がある. Class BではCEJが破壊されていて,結果的に術前術後を比較する重要なランドマークが消失している.加えて,歯根表面の凹みの深さは重要なファクターで,外科的な根面被覆処置とトは従来の修復治療とは大きく異なるため56,57,発想の転換が必要である.NCCLの範囲・深さならびに歯肉退縮の量は症例間で大きく異なるため,適切な治療アプローチを選択することが重要である.充填の存在が根面被覆を困難にする場合もあるため,修復を行う,あるいは行わないという意思決定には根面被覆の必要性も考慮する必要がある. ここまで,NCCLに対する根面被覆の概要を簡潔に示したが,より具体的なロジックとテクニックについてマスタークリニシャンの築山鉄平先生に症例を交えて解説していただく.根面被覆は審美的要求が高い場合に選択されることが多く,修復とコンビネーションで行われる場合もあるため,より厳密な症例選択と意思決定が要求される点に注目されたい.
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