顎顔面成長の基本原理
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37a.中顔面と上顔面の骨格 中顔面と上顔面の骨格は、化石や現存する霊長類の顔面頭蓋のもっとも注目すべき形態学的特徴を備えている。特に、眉と頬の領域には、他の頭蓋顔面骨格とは比べ物にならない多様性がみられる。化石ヒト科動物では、ホモ・エレクトゥスに至るまで、頑強な中顔面と上顔面の骨格が一般的であり、「頑強な」アウストラロピテクス属では、特に強く表れている。現代のゴリラやチンパンジーは、最古のヒト科動物の形態と似ているところがある。対照的に、比較例で認められた種の間での多様性ほど、劇的ではないと思われるが、現代のヒトの頬と眉の形態の多様性も、他の霊長類には類を見ない。サハラ砂漠南部のアフリカ系の多くの人の優美な中顔面と上顔面の構造を、現代の多くのオーストラリアのアボリジニのような頑強な顔面と比較することで、われわれ、現代人の多様性を明らかに示すことができる。ヒトの種内の多様性は、おそらく、集団遺伝学の観点から理解する方が良いと思われるが、この章の対象範囲外であるので、ここでは、霊長類における上顔面と中顔面の骨格的解剖学の一般的な構造機能について説明する。 上顔面の骨格や眼窩周囲は、外眼筋の付着部位であり、前頭蓋窩の底部でもあり、鼻腔を収納し、側頭筋の前方部分の起始部としての役割も果たす。そして、眼窩内の内容物も保護する。顔のこの部分の構造配置は、二つのこと、すなわち、目と脳の空間的関係と側頭筋の前方部で機能する咀嚼の必要性により大部分が決定される。機能マトリックスの点では、顔面頭蓋のこの部分に関連する主要なマトリックスは、眼窩内容物、側頭筋前方部分と鼻気道の上部流である。チンパンジー、ゴリラ、あるいは、アウストラロピテクス属など、脳の前頭葉の前方に目が位置している種では、眼窩内容物を収容するため、眼窩周囲の領域に骨による強化が必要である(図2.15)。目が前頭蓋窩の下方に位置する場合、眼窩内容物に収容するための骨の変化の必要性は小さくなる。眼窩の大きさと眼窩内容物の容積の間には、大きな差があることが知られている(Schultz,·1940年)、したがって、目-脳の空間的関係は、眼窩周囲の骨格の解剖学的構造が部分的に説明できるだけである。 類人猿における頭蓋の成長観察結果から、目と脳が成長した後、眼窩の形態的な顕著な変化は停止し、目-脳の空間的関係が安定化されることが明らかである。成長の連続的観察から、そのような変化の原因因子の手がかりが得られる。すなわち、より頑強な上顔面の骨格は、より大きな中顔面と下顔面の骨格に付随して生じると思われる。限られた数ではあるが、咀嚼系がより頑強であるほど、上顔面の骨格はより頑強である。機能マトリッ頭蓋顔面複合体の形態の進化図2.15 チンパンジーの頭蓋骨の一連の成長。右から二番目の頭蓋骨は、成人のメスのものである。一番右の図は、成人のオスのものである。脳と目の成長は、左から三つ目の頭蓋骨で示される段階で、基本的に完了している。

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