山根源之(東京歯科大学名誉教授)PART 3 抜歯と肉芽62早読みsummary 抜歯後に歯槽骨内に残された抜歯窩は,通常に経過すれば最終的に周囲と同じ骨になり,抜歯窩の痕跡はなくなる.その抜歯窩の治癒過程に肉芽組織の存在は必須条件である.ところが根尖性歯周炎や歯根嚢胞など,歯根周囲に炎症をもった歯では,抜歯の際に歯根周囲の炎症性肉芽組織が残ると抜歯窩の治癒が妨げられ,時間が経過しても骨化しない症例を経験する.このような場合,炎症性肉芽組織は邪魔な存在となる. 肉眼的には,抜歯窩表面の上皮化によって治癒したかのように思われるが,抜歯窩の治癒経過は肉眼では確認できないため,エックス線やCTによる画像検査での診断が必要である.画像検査で確認すると,多くの症例では抜歯窩は速やかに骨化するが,抜歯後6か月以上経過しても,インプラント手術の際に十分な骨になっていない症例に遭遇することも珍しくない.抜歯部は,歯槽骨吸収による顎堤萎縮もある.歯の欠損部をブリッジや床義歯で補綴する場合は,臨床的に大きな問題はない.しかしインプラント手術を予定している場合では,抜歯部位に骨が形成されていなければ,手術方法にいろいろな工夫が必要になり,執刀者の経験と技術が手術結果に影響する. 本CHAPTERでは,インプラント手術時の臨床例を提示し,肉芽組織をどう扱えば順調な抜歯窩の治癒を得ることができるのか考えたい. 同じように抜歯を行ってもドライソケットになる場合とならない場合がある.この違いは何か,またドライソケットにならない抜歯法はあるのか考察する. 抜歯創は骨の開放創であり,歯根があった部分(埋伏はじめになぜドライソケットになるのか通常,抜歯後は抜歯窩内に血液が充満するため,ドライソケットにならない.血液は凝固して血餅になる.抜歯窩内に充満した血餅は肉芽組織になり,最終的には骨化して抜歯窩内は周囲と同じ骨になる.抜歯窩の治癒過程に肉芽組織の存在は必須条件であるが,抜歯の際に歯根周囲に炎症性肉芽組織が残ると,炎症性肉芽組織は線維性結合組織になる.線維性結合組織は抜歯窩内に瘢痕組織として残り,骨形成が完成しない.炎症性肉芽組織を残さないために,炎症(感染)のある歯の抜歯では徹底した掻爬が必要である.抜歯窩の治癒経過は肉眼では確認できないため,エックス線やCTによる画像検査での診断が必要である.CHAPTER 4抜歯窩と肉芽ドライソケットとは
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