肉芽の科学と臨床
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象牙質赤血球血餅滲出液9図1 実験的歯根窩洞形成を示す模式図.イヌを用いて粘膜骨膜を弁状に剥離し,フィッシャーバーで歯根中央部に歯槽骨,歯根膜,セメント質および象牙質に至る直径3mmの窩洞を形成し,粘膜骨膜弁を元に戻して,治癒過程を経時的に観察した.*参考文献1を改変.3日後図2 組織欠損補充のための肉芽組織(HE染色).術後3日目の窩洞内は滲出液や血餅で満たされている.*参考文献 4より.CHAPTER 1 肉芽とは何か? 創傷治癒は,「組織の損傷→炎症→壊死組織・異物の排除→修復」という一連の過程を経て,外見上損傷が補修され,機能障害が除かれたときに完了する.一般に,創傷治癒は一次的治癒(完全治癒)と二次的治癒(不完全治癒)に分類される.一次的治癒では肉芽組織はほとんど関与せず,損傷を受けた局所が元の組織構造に完全に復旧する場合をいう.外科的無菌的な切創の治癒が一次的治癒の良い例である.二次的治癒では肉芽組織が関与し,多少とも瘢痕を残した治癒である.創傷が大きく,また創面が上皮に覆われることなく露出したり,感染を合併していることが多い3.詳細は後述する. 外傷や炎症などによって組織が欠損したとき,その補充にも肉芽組織が関与する.実験的にイヌの歯根に窩洞を形成し(図1),治癒過程を観察すると,3日後では窩洞内は滲出液や血餅で満たされている(図2).7日後では窩洞内は肉芽組織によって占められている(図3).感染がなければ炎症性細胞はほとんどみられない.14日後になると歯槽骨断端から骨が新生し,欠損部を橋渡しするように伸びている(図4).85日後では,新生骨は窩洞の凹部に対応して増殖している.象牙質の表面は新生セメント質によって覆われている(図5).このような実験では,再生の主役は歯根膜であり,歯根膜由来の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,未分化間葉細胞)の増殖・分化,成長因子,および足場が重要となる1, 2(図6).肉芽組織が関与する病変肉芽組織と創傷治癒肉芽組織と組織欠損の補充

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