第1章第2章第3章第4章第5章ている. また,現在までの歯科医療は,う蝕や外傷などにより失われた歯質,歯髄組織を不活性材料にて置き換えることが第一選択とされ,世界的に普及している.一方で,“RET”は“Biologically-based procedures designed to physiologically replace damaged tooth structures, including dentin and root structures, as well as cells of the pulp−dentin complex(損傷された象牙質,根管構造,象牙質/歯髄複合体の細胞を含めた組織を生理学的に置換することを目的とした生物学に則った治療法)”であると定義されている22.つまり,RETは歯質や歯髄組織の生物学的再生を誘導することであり,従来の治療方法とは一線を画するも アペキシフィケーションとは,アピカルバリアを形成する,もしくは促す処置であり,根未完成歯の歯髄壊死症例に適応となる(図3-60).従来のアペキシフィケーションは水酸化カルシウムを根管貼薬することによりアピカルバリア形成を促す方法であったが13,1年から2年ほどの長期にわたる水酸化カルシウム貼薬が必要であった14,15. また,水酸化カルシウムは3か月もしくは6~8か月ごとに交換されるべきである16.長期的な水酸化カルシウム貼薬は歯根破折に関連があり17,歯質が脆弱になるため18,歯の長期予後に疑問がもたれる治療法であった.前述の問題を解決するため,水酸化カルシウムの長期貼薬は行わず,MTAセメントにてアピカルバリアを形成する方法が提唱された19,20. MTAセメントを使用することで,大幅に治療期間の短縮をすることができるようになり,水酸化カルシウム貼薬を行わず,1回法で治療を行うことも可能になった21. アペキシフィケーションでは臨床症状,根尖病変の改善は認められたとしても,治療後に歯根形成,とくに歯根歯質の厚みの増加を必ずしも期待することができない.そのため,アペキシフィケーションによる治療後の歯は健全歯と比較して,破折抵抗性が低いままであった17.のである. 2011年には米国歯科医師会(ADA)により,正式な治療法として認められており,2014年から米国大学歯内療法専門医課程においては必須項目として臨床教育が行われている.う蝕や外傷,中心結節といった発育異常などにより歯髄感染,歯髄壊死が起こりうるが,とくに根未完成幼若永久歯の場合,治療難易度が高くなる(図3-61). このような症例に対して,従来であればアペキシフィケーションが施されていたが,現在ではRETという選択肢が検討されるようになった.従来法のアペキシフィケーションでは水酸化カルシウムの長期的な貼薬を行い,アピカルバリアを形成し,根管充図3-60 ₅歯髄壊死,症候性根尖性歯周炎の診断.根未完成歯であり,治療としてMTAセメントを用いたアペキシフィケーションを行った.術後6か月で根尖部の歯根形成が認められた.第3章 実践! 歯内療法103番外編アペキシフィケーション
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