●う蝕から歯髄炎,歯髄壊死へ向第1章第2章第3章第4章第5章 われわれ歯科医師は“炎症”と“感染”を明確に分類し,診断する必要がある.“炎症”は組織損傷などの異常が生体に生じた際,損傷に対する免疫応答により生じる.“感染”は病原微生物が体内に侵入したときに発生する.すなわち,“炎症”とは“感染”などの外部刺激に対する体の免疫応答である.一般的に免疫応答が生じると,炎症の四大徴候と呼ばれる発赤,熱感,腫脹,疼痛を特徴とする徴候が生じる.また,組織異常の発生部位によるが,機能障害をもたらす場合もある.その機能障害を加えて,炎症の五大徴候とも呼ぶ. たとえば,蚊に刺されたときに皮膚が赤く腫れ上がる.それは蚊の体液(化学物質)による侵害にともない,血流が増大することにより発現する.平常時とは異なるエネルギー需要を満たすことにより,組織異常に対する治癒が促進される.外的刺激が好中球やマクロファージなどの貪食細胞で除去されない場合,急性炎症から慢性炎症へと移行する.急性炎症は臨床的には症状を呈する状態であり,炎症性細胞,ケミカルメディエーターの遊走が顕著である.対して慢性炎症は臨床的な症状はない,もしくは乏しいとされる.よって,急性炎症と慢性炎症は明確に区別する必要がある.図1-2 細菌,もしくは細菌の産生物が歯髄に達すると歯髄は炎症反応を呈する.歯髄は象牙質という硬組織の中にあり,“low-compliance environment”と呼称される.“腫脹”が軟組織で起きると歯髄血流は阻害され,最終的に血流が遮断し歯髄壊死に至る.1)“歯髄の炎症”の進行 歯髄炎とは“歯髄の炎症”であり,外部刺激により惹起される免疫応答である.歯髄の自己防御機能には,①エナメル質,象牙質による物理的防御,②第三象牙質を生成することによる物理的防御の強化,③免疫細胞による防御機能,があり,外部刺激から歯髄を保護している1.ほとんどの歯髄炎は細菌感染に対する免疫応答として起こる(図1-2).他には咬合や外傷,修復治療などの物理的刺激,修復物からの化学的刺激,温度刺激,電気刺激,放射線刺激などによっても歯髄の免疫応答は惹起される(図1-3)2. 健康な歯髄組織はすぐれた自己治癒能を有するが,長期的な外的刺激により不可逆的に損傷し,歯髄炎もしくは歯髄壊死に至る3. エナメル質,象牙質は物理的な防御として,外的刺激から歯髄を防御しているため,臨床所見,エックス線所見から浅いう蝕であれば軽度の組織損傷を疑い,歯髄の炎症は軽度であると考えられる.しかし,臨床所見,エックス線所見では,う蝕が直接歯髄に達していない状態でも“symptomatic irrevers-ible pulpitis(以下,症候性不可逆性歯髄炎)”という診断を下す場面が多々ある.図1-4のエックス線かう過程第1章 歯内療法の基礎知識111.炎症概論2.歯髄炎の病因論
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