顎矯正手術エッセンシャル
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下顎前歯部歯槽骨切り術とは下顎前歯部歯槽骨切り術(mandibular anterior alveolar osteotomy)とは,臼歯部の咬合に問題のない下顎前歯部の前突や開咬を改善することを目的とする手術である.両側小臼歯(通常は第一小臼歯,まれに第二小臼歯)を抜歯して歯槽骨を縦骨切りし,両側下顎犬歯間で水平に骨切りして,両側小臼歯部の縦骨切り線と連続させて下顎前歯部の歯槽骨片を切離し(図1),一塊として後方あるいは垂直方向に移動させる方法である(図2).切離された歯槽骨片には,舌側歯肉や口底軟組織,オトガイ舌筋,オトガイ舌骨筋の一部が付着しており,この部分からの血液供給を受ける.1849年にHulihenが下顎前突症の外科的矯正を目的として本手術を最初に行い,その後,Hofer,Köle,Mohnacなど多くの先達により術式に改良が加えられ,今日の術式として確立され,広く行われるようになった.適応本術式は,臼歯部の咬合は正常で前歯歯槽部に限局した異常のある患者で,矯正単独での治療が困難な場合に適応される.また,下顎前歯部歯槽骨の頬舌的な厚さが薄い症例では,歯槽骨内で下顎切歯を唇舌方向に傾斜移動できる距離は小さく,無理をすると歯槽骨や歯根の吸収,歯肉の退縮が生じることがあるため,そのような症例でも本法が用いられる.具体的には,下顎前歯の唇側傾斜をともなった歯槽性の下顎前突症や前歯部開咬症に対して,歯の移動や歯軸,下顎のSpeeの彎曲,下顎歯列正中の偏位などの改善が可能である.ただし,前歯の後退量が小臼歯抜歯後により生じる空隙の範囲内であることが必要である.図2 下顎前歯部歯槽骨切り術.5mm以上下顎前歯部歯槽骨切り術とは図1 骨切り線.PART3 下顎の手術162

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