スズキヒロキの食べるにこだわる高齢者義歯読本
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 89歳のDさんのご自慢は2~3年ほど前に作ってもらったという金属床の義歯(図21).ご本人は多少の違和感を持ちながらも,食べるのにはとくに困っていないと言うのですが,ご家族からは最近食べこぼしも多くなり,むせることも増えてきていると報告を受けていました. Dさんはアルツハイマー型認知症ではありますが,それほど重度ではないため,認知症からではなく加齢や廃用による口腔機能低下を疑い,舌圧を測定するとかなりの低値を示しました.高齢で車椅子のDさんにトレーニングで舌圧を向上させるのは難しいと判断し,ご家族とも相談して,口蓋研磨面を厚くした舌接触補助床にすることにしました.しかし,金属床のままでは修理はできませんし,仮に無理矢理修理してもカンジダ菌が繁殖しやすくなるため,Dさんの自慢の義歯ではありましたが,十分に説明したうえで新義歯を製作しました. 金属床の義歯で口蓋部分を薄くするのは,患者さんが元気なうちは義歯による違和感を減らし,使用感を良くするのに効果的な場合があります.逆に高齢期には口蓋部分を厚くすることで義歯の違和感を減らす場合や,低下した舌機能と調和させて義歯を機能させる場合が多くなります(図22).そのため,安易に高齢者に金属床義歯を製作することには注意が必要です. 現在,新義歯を製作してから約2年が経過しました.91歳になったDさんは,さすがに口腔機能に全般的な低下が見られますが,肺炎や大きな発熱などを起こすことなく,今もご家族に連れられて定期的に通ってくれています(図23).Dさんが当初使われていた義歯.口腔機能の低下により,義歯形態の修正が必要でしたが金属部分は変えられないため義歯を新製することとなりました.新義歯の製作にあたり,複製義歯を用いた印象と咬合採得を行いましたが,その際に口蓋研磨面に舌の動きを印記し,その形態を完成義歯の形態に活かして舌接触補助床を製作しました.2年後のDさん.今のところ大きな問題はなく,口から食べられています.図21~23 Dさんと義歯その金属床は必要ですか?Column 4悩み解決コラム212223これで納得!66

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