スズキヒロキの食べるにこだわる高齢者義歯読本
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13 こだわるのか? しかし,原因がそれだけであれば,通法に従った義歯を製作することで問題は解決するのですが,そこに「はじめに」でも触れたように歯を失ったことによる器質的問題だけでなく,患者さん自身の加齢その他による機能的問題が加わると話が大きく違ってきます. たとえば,機能が著しく低下した高齢者に,健常な方と同様の手法で義歯を製作し,提供したとしても,その義歯をうまく使いこなせないことが考えられますし,場合によっては,その義歯のために高齢者の「食べる」機能がかえって低下することさえあります. ましてや,機能が低下した高齢者が不適合・咬合不良・不正な顎位の義歯を使用していたら,その義歯がどれだけ「食べる」機能を邪魔してしまうかは想像に難くありません.また,実際はあまり食べられていない状態であっても,本人や家族がそれを認識しているとは限らず,訴えがない場合もあります. そのため,高齢者への義歯治療を行うにあたっては,患者が現状でどれくらい食べられるのか,そしてどれほど食べる機能が残っているのか,機能回復は可能であるのかなど,しっかりと診断したうえで治療を進めなければ良い結果は期待できません. 食べる機能が低下した状態が続き,栄養状態が低下すれば,フレイルやサルコペニアなどに陥ることにもつながり,ひいては生命予後が短くなる可能性が高くなります.つまり,「食べる」ことは「生きる」ことに直結しており,とても重要なのです.高齢者にとっての義歯は,かえって機能を下げる無用の長物ではなく,患者の残った機能をサポートし,「食べる」機能を維持・向上させるための有効な道具でなければなりません. そのため本書では,高齢者の食べられる義歯に必要な知識や手法,考え方をChapter1〜6にまとめました. Chapter1では「知っておくべき高齢者の知識」を,Chapter2・3・4では「高齢者義歯が具備すべき要件と手法」を,Chapter5では「高齢者医療を行う者が持つべき視点」を,Chapter6では「まとめとしての臨床例」を記載しています. どの項目からでも読めるように構成していますが,Chapter1〜6をトータルで読むことで高齢者医療に対する理解が深まり,高齢者への歯科治療全般に応用が可能な内容になっています. ぜひ,最後まで目を通して頂ければと思います.

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