歯科医師のための口腔顎顔面痛
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身体症状症患者・パーソナリティ障害患者への対応(危機管理)225専門医に依頼する身体症状症には薬物療法・認知行動療法が有効であることが多いため,専門医に依頼するのが得策である.残念ながら,身体症状症の診断と治療に精通している精神科医・歯科医師は,まだ多くない.しかしながら,口腔顔面痛専門医あるいは歯科大学の「痛み外来」などの専門医のなかには,この疾患に対応できる歯科医師が増えつつある(図1).各論(表1)2①,②「治癒」を期待せず,患者が症状をコントロールできるよう援助する身体症状症を治療する際のモットーは,治療医が患者の「治癒」を期待しないことである.医師という人種は病気をみると治癒するまで徹底的に治療を行おうとする傾向が強いが,身体症状症のなかには治癒が期待できないものも多い.患者が症状に振り回されないよう(症状をコントロールできるよう)援助することを心がけたほうが良い.症状をコントロールできるようになると,患者のQOL(生活の質)は向上するため,むしろこちらを目標としたほうが現実的である.③患者との面接は必ず定期的な予約とする患者との面接は,短時間で頻回でもかまわないが,必ず定期的な予約とすべきである.身体症状症や病気不安症の患者に対して,「いつでも診てあげる」と言ったり,毎日のように診察をしている医師を多くみかけるが,患者の症状が悪化していくことが多く逆効果である.頻回に同じ訴えを繰り返すことにより症状が増悪したり,自分で症状をコントロールすることを放棄することにつながるからである.場合によっては,「あなたの診察は毎週火曜日という約束にしたはずですよ」と突き放すことも必要である(図2).④薬物療法薬剤は,国際的にはSSRI*が第一選択であるが,疼痛を伴う場合は三環形抗うつ薬やSNRI*を用いる場合もある.また,作用が穏やかな漢方薬も,漢方医学的診断である「証」が合致していれば効果が期待できる.投薬は医師が患者を見放していないという証拠にもなるので,必要である.ただし,ベンゾジアゼピン系抗不安薬(精神安定剤)は原則的に用いるべきではない(*CHAPTER 10「抗うつ薬」参照).⑤患者自身がストレスと症状の関係を自覚することを手伝う身体症状症の症状は,ストレスなどの心理的要因に図1 自分で何とかしようとせずに,専門医へ依頼する.図2 ときには患者を突き放すことも必要である.表1 身体症状症の治療の原則7か条①「治癒」を期待しないこと②患者が症状をコントロールできるように援助すること③患者との面接は必ず定期的な予約とすること④薬物療法:薬剤は穏やかな作用のものを使い,ベンゾジアゼピン系抗不安薬を用いないこと⑤患者自身がストレスを自覚することを手伝うこと⑥ストレスと症状とを安易に結びつけないこと⑦家族との治療協力を得ること

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