歯科医師のための口腔顎顔面痛
5/6

224CHAPTER4はじめに本CHAPTERでは,まず身体症状症患者を治療する際の原則を説明し,後半で,身体症状/身体化による症状を訴えている患者が歯科を受診した場合のトラブル回避法について解説する.身体症状症の治療原則総論1非可逆的・侵襲的な処置を行わない身体症状症患者は,かみ合わせの異常感や新しく装着した補綴物が舌に触って痛い,などと具体的な訴え方をするため,良心的な歯科医師ほど咬合調整や補綴物の形態修正,再作製,インプラント体除去などの外科処置に踏み切るなど,経済的・身体的にリスクの大きい処置を行う傾向にある.しかしながら,身体症状症では,いったん症状が発現すると歯科的な治療はまったく無効であるばかりか,悪化させる可能性が高いため,非可逆的・侵襲的治療は避けることが重要である.身体症状症患者・パーソナリティ障害患者への対応(危機管理)早期に第三者に依頼し,歯科治療が原因ではないことを保証してもらう身体症状症患者の訴えは,客観的に観察して奇異であり,医学的に説明がつかないものであることが多い.たとえば片側の下顎にインプラントを埋入したにもかかわらず,術直後から両側の下顎,または上下の口唇周囲に感覚脱失が生じたなどと解剖学的に整合性を欠いた訴え方をすることが多いため,歯科医師は論理的に説得しようと試みる.しかしながら,このような場合,患者にとっては自覚症状が絶対的な事実であり,処置を行った当の歯科医師がいくら治療の正当性を訴えても聞く耳をもたない.むしろ患者の不信感や反感を煽ることになる.このような場合は独力で何とかしようとするのではなく,まず口腔顔面痛専門医や歯科大学・市中病院の歯科・口腔外科に依頼し,歯科治療との因果関係を第三者によって否定してもらうのが良いと思われる.否定によって患者の症状が改善することはあまり期待できないが,少なくとも処置に落ち度がなかったことを証明することはできる.パーソナリティ障害患者は,一般の人に比べて訴訟を起こす率が高いという報告もあるため,信頼できる第三者に介入してもらうのが得策である.

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る