歯科医師のための口腔顎顔面痛
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212CHAPTER3はじめに初対面の患者のなかには,妙になれなれしかったり,とりつく島もないほど尊大だったり,前の治療についての不満を数時間にわたり話したりと,きわめて奇妙な印象を与える人たちがいる(図1).「少し変わった人だな」という程度の認識で治療を開始すると,しばらくして「先生が冠を入れてから,めまいがして寝込むようになった」「抜歯の後,顔面半側にしびれが起こった」などと訴え始め,その訴えが日を追ってパーソナリティ障害非現実的・執拗なものとなり,最終的に激しい恨みの感情となって訴訟にもち込まれるということがある.このようなタイプの患者には,パーソナリティ障害(personality disordes:PD)の人が少なくない.パーソナリティ障害患者はもともと身体症状を起こしやすく,歯科治療がその引き金を引くことがある.この場合は,身体症状症患者の場合よりずっと激しい反応を示し,歯科医師は精神的に大変苦しめられる.パーソナリティ障害を初対面で見破るのは精神科医でも困難である.トラブルを未然に防ぐにはパーソナリティ障害という概念をもち,違和感を感じたら,患者のパーソナリティを把握しきれるまでは非可逆的治療を行わないなど,慎重に対応する必要がある.医療現場で最も問題となるのは,A群の猜疑性パーソナリティ障害とB群パーソナリティ障害の患者であると考えられるので,本CHAPTERではこれらのパーソナリティ障害を中心に解説する.パーソナリティ障害とは何か1定義パーソナリティ障害は,「その人の属する文化から期 LEAD :訴える患者,外来で泣き叫ぶ患者,恨みを募らせる患者.図1 初めは「少し変わった人だな」という程度の認識である.

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