歯科医師のための口腔顎顔面痛
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第Ⅰ部 身体疾患 CHAPTER 4 口腔顔面部の特発性疼痛疾患154症例27 特発性歯痛によってつぎつぎに抜歯が行われた症例42(図10)患者:55歳,女性,病悩期間10年.主訴:76の自発痛(VAS 100/100).治療と経過X年:①8の抜歯をきっかけに②6に自発痛が発現.原因不明だが痛みが強いため抜髄したが,痛みが消失しないため抜歯.直後から痛みは③5→6に移動し,同様の経過で抜髄,抜歯となった.痛みはさらに④12に移動し,歯根端切除2回,星状神経節ブロック36回(いずれも無効)を行った.その治療中に⑤76に疼痛が移動して,3年間根管治療を行ったが疼痛の改善はみられなかった.X+10年:著者らの口腔顔面痛外来初診.解剖学的整合性なく拡がる疼痛の性状と経過から特発性歯痛と診断し,薬物療法を開始.治療開始1か月後には,アミトリプチリン150 mg/日で著明な改善が得られ,3か月後には疼痛は消失した.再発を防ぐために,1年間の維持療法を行った.X+17年:補綴を完了した.症例28 インプラント治療後に発症した特発性歯痛の症例(図11)42患者:81歳,女性.主訴:1の激痛(VAS 100/100)と全身の不全感.現病歴X年11月:静脈麻酔鎮静下で,インプラントを上顎左右に3本ずつ,計6本埋入した.術直後から1に激痛が発現した.創部の経過自体には問題はなく,1週間後に抜糸を行ったが,12月には体調不良,口のなかの違和感,インプラントが不愉快な感じで,寒気,震え,極度な全身倦怠感も生じ,疼痛や体調は徐々に悪化していった.当初より,原因はインプラントであるとの思いが強かったため,埋入1か月後に主治医に依頼してインプラント6本をすべて除去したが,症状は改善しなかった.その後,複数の歯科医院で診察を受けたが,いずれも症状に見合うだけの器質的異常は認められないと診断された.発症からの半年で歯科を5件受診,体重は7 kg減少していた.治療X+1年6月上旬:著者らの外来を紹介受診.アミトリプチリンを10 mg/日から開始し漸増した.2週間後,アミトリプチリン20 mg/日を1週間服用した時点で疼痛は完全に消失し,9月中旬には発症前の日常生活に戻るまで回復した.その後5年間再発していない.図10 ①を契機に②,③,④,⑤の順に疼痛が移動した.図11 インプラント除去後のエックス線画像.

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