根尖病変と骨縁下欠損の骨再生のメカニズムの違い3 歯周組織炎は,臨床的にはいわゆるエンド病変,ペリオ病変といわれ,エックス線所見としてはどちらも歯根周囲に骨透過像を呈す.また,どちらも歯根膜の炎症ではあるが,前者は根尖部歯根膜に生じた炎症細胞浸潤の結果,二次的に骨吸収像を呈しているに過ぎない.一方,後者は歯肉溝からの感染により生じた歯根膜の炎症が持続することで,徐々に歯冠側からセメント質表面の歯根膜を失い,歯周ポケットを形成していく.その結果,セメント質の露出,歯槽骨縁下の欠損,歯肉上皮の根尖側への進行増殖を生じる(図15). このことは,根尖病変においては起炎因子の除去と根管の緊密な封鎖により,歯根膜の炎症が消失し,正常に回復することを意味しており,どんなに大きなエックス線透過像であっても,歯内療法のみで治る可能性を有している(図16). それに対し,ペリオによる骨縁下欠損は歯頚部からの歯根膜の喪失と歯肉上皮の根尖側への進行増殖の結果として生じる歯周ポケットヘの対応であり,その再生療法はそう簡単なものではない.骨縁下欠損部に対して,無菌状態で歯肉結合組織をコントロールしながら,汚染された露出セメント質の表面に新たに歯根膜を再生させることは臨床現場ではほとんど不可能なことであろう(図17). その意味では,今日まで臨床家の間で盛んに行われてきた歯根挺出法による骨再生療法は,歯根膜を歯冠側に移動させることにより骨欠損を改善させ,結合組織性の再付着を目指すわけであるから,理にかなっているといえる. 今日では骨補填材の填入(図18),GTR法,エムドゲインⓇによる組織再生療法など,さまざまな術式での対応がなされているが,いずれにしても上皮と結合組織との相互関係を十分理解し,その性質を臨床に応用することが,より効果的な歯内・歯周治療のキーポイントとなる.・エンド病変は歯根膜の防御反応である.・ペリオ病変は歯根膜の喪失により上皮が根尖側へ移動する生体の防御反応である.・咬合性外傷は歯根膜の組織傷害であり,エンド・ペリオ病変における骨吸収を加速させる.図15 エンド病変,ペリオ病変はどちらも生体の防御反応であり,結果として骨吸収を生じるが,その病態はまったく異なる.さらに咬合性外傷が加わることより,炎症反応が増強される(下川公一,山内厚.エンド・ペリオの臨床的診断力を探る 6.エンド・ペリオ診断 エンド由来の根分岐部病変.the Quintessence 1997;16(1):83より引用改変).▶エンド病変,ペリオ病変と咬合性外傷CHAPTERⅠ 根尖病変と骨縁下欠損の病理組織学的概念33
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