CHAPTERⅣ エンド・ペリオ病変の根管が感染し,根尖部に膿瘍を形成した場合,瘻孔を作らずに緩んだ歯根膜腔を通って根分岐部の歯肉溝から膿が排出されることがある.大臼歯の根分岐部病変には,このような発症過程を経て慢性化した,単なる根尖病変である場合も多く認められる.したがって,そのような症例では,いかにそのエックス線透過像が著明でも,咬合力による負担過重への配慮をしながら通常の歯内療法を行えば,根分岐部病変は治るはずである(図4,5). とくに延長ブリッジのような場合,支台歯にはかなり大きな力が加わっており,根尖病変の診断を惑わすことがあるので注意したい.歯内療法を始める前に必ず補綴装置を除去して,咬合の負担を軽減させておく必要がある. エンド病変の炎症の波及部位が分岐部へ偏っていく理由はさまざまであるが,大臼歯部の根分岐部に咬合支持の過重負担がかかりやすいことが,主な要因として考えられる.そこで,咬合による過重負担を取り除き,通常の歯内療法を行えば歯根膜の炎症は消失し,破骨細胞の低活性化と造骨細胞の活性化の結果,歯周組織は正常に回復する.なお,エンド由来の根分岐部病変は,根尖孔から連続したエックス線透過像として認められることに注意したい(図6,7).図8の症例は,₅と₆の2歯にまたがる透過像を認めたケースであるが,この症例からエンド由来の根分岐部病変のからくりがわかるかもしれない.₅と₆近心根を大臼歯の近心根と遠心根に見立てて考えると,₅₆間の透過像は,波及していく炎症のなす不思議な業であることを理解できる.本症例のように隣接歯が健康生活歯である場合は,₅の▶エンド由来の根分岐部病変①:11年経過症例図4,5 エックス線透過像が著明でも,咬合力による負担過重への配慮をしながら歯内療法を行えば,エンド由来の根分岐部病変は治癒していく.1992.1.9(初診時)1992.1.9(初診時)1992.1.101992.1.301992.2.51992.2.6(根管充填時)1992.4.151993.11.242003.7.18(11年後)図4 咬合痛を主訴として来院.1年前に₇延長ブリッジを装着とのこと.動揺をきたし根尖から分岐部にかけて著しい骨透過像を呈していた.歯頚部歯肉溝より根尖部までの交通が見られ,歯頚部より排膿していた.咬合性外傷と歯髄壊死が原因の典型的なエンド由来の根分岐部病変である.図5a,b 初診時(a)と11年後(b)の比較.通常の歯内療法にて治癒している.ab291
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