根管口明示が 根管治療の成功率を決める2-1Author: 吉川宏一34根管口明示が成功への入口“エンド” こだわりポイント髄室開拡と根管口明示 根管治療を髄室開拡から始める際にもっとも配慮しなければならないのは,根管口明示である.この良否によって,後に続く根管治療の成功率が決まるといっても過言ではない.基本的には,根管口から根管の歯冠側1/2までを直線形成する(図1).とくに注意すべきは,歯頸部に慢性う蝕がある場合である.修復象牙質の添加が著しいと,顕著なエンド三角によってファイルが拘束されてしまう(図2,3).最後方臼歯へのアクセスの困難さ 臨床家が根管治療で最初に直面する問題点の1つは,患者の限られた開口度の範囲で,最後方臼歯の複雑な根管に対してもアプローチしなければいけないということである.臨床で行うほとんどの根管治療において,術者は歯冠側からアクセスして,根管口から根尖孔までの根管内の無菌化を達成しなければならない.ところが,慢性う蝕があり,修復象牙質によって髄室内の顕著な石灰化が見られる場合には,ファイルを根管口に挿入することさえ困難なこともある.最後方臼歯に対してアクセスを容易にするためには,アクセスを妨げている近心頬側壁を通常よりも多めに削除することが必要になる(図3,4).もし上顎の智歯に対して根管治療が必要になった時は,迷いなく頬側の近心隅角部を歯頸部近くまで削除することから根管拡大をスタートする.そのことで歯冠に囲まれて見えなかった根管口の明視化が確保でき,アプローチが可能になる.残根歯の根管治療の容易さ 患歯が歯冠のない残根状態で,根管口が口腔内に露出しているような状態であれば,容易に根管治療を進めることができる.このことを,臨床例を出して説明していく. 図5は,₃の2根で2根管の症例である.この歯もコアを撤去すれば残根状態となるため,容易に2根管の根管充填が可能であった.根管治療成功のためには根管口明示がまず大切だと,この症例がわれわれに教えてくれる.アクセスだけを目的とし,不用意に健全歯質を削除することは何よりも避けるべきことである.しかし,その歯の機能を回復し,生涯にわたって維持させ続けるためには,根管充填終了後のコア築造,歯冠修復が必要になっていくと思われる. 結局,コア築造や歯冠修復の形成時に後から歯質を削除する必要があるならば,臨床手順を逆にして先に必要十分なだけ歯質を削除しておけば,アクセスが容易になり確実に根管治療の成功率を上げることができる.事前のプロビジョナルクラウン装着の利点 根管治療終了後,その歯を破折させず健康な状態を維持するために,プロビジョナルクラウンの装着・支台築造,歯冠修復処置を行っていく.そのための歯質削除や形成は,その歯の永続性のために必要である.その臨床手順の前後を変えてもまったく問題はない.たとえば,根管治療を始める前に,歯冠形成・プロビジョナルクラウン装着をする図1 通常10番のHファイルを使うイニシャルファイル(最初に入れるファイル)が,理想的にはエンド三角や根管の側壁に拘束されることなく,真っ直ぐにファイルの先が作業長まで到達していることが望ましい.なぜなら,エンド三角にファイルが制限されてファイルが弯曲していると,ファイルは真っ直ぐに戻ろうとすることから,ファイルを回転した途端にファイルの先でジップ(ステップ)を形成してしまう.それにより元の根管の方向を見失い,人工の根管を形成してしまうことで,結果的に根管を破壊することになってしまう.エンド三角を除去し,直線形成を目指す(図1)
元のページ ../index.html#3