歯周病およびインプラント周囲組織の疾患と状態に関する新分類
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WORKGROUP 4259緒言 オッセオインテグレーションしたインプラントに影響を与える生物学的併発症は,現代歯科医学において大きなトピックスとなっている.インプラントのこのような併発症は主として細菌が関係する炎症状態に起因する1-3.臨床的には,2種類に分類され,インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎に分けられる.炎症性病変の存在が共通の特徴であり,インプラント周囲炎のみで骨喪失が認められる4.また,インプラント周囲粘膜炎はインプラント周囲炎に先立って起こるとされている3. このレビューでは以下のトピックについて述べる.1)インプラント周囲炎の定義2)インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎への移行3)疾患の発症と進行パターン4)インプラント周囲炎の特徴5)インプラント周囲炎のリスクファクター/インディケーター6)軟組織に炎症がない場合の進行性の骨喪失方法検索戦略とデータ抽出 電子および手動検索がトピックに応じて行われた.アメリカ国立医学図書館(US National Library of Medicine)のPubMed データベース,ElsevierのExcerpta Medica database(Embase),およびトムソンロイターのWeb of Knowledgeを用いて関連論文をスクリーニングした(動物,ヒトを対象とした実験的研究/観察研究,ランダム化比較試験/比較臨床試験,システマティックレビュー/メタアナリシス,コンセンサスレポート).関連論文からデータが抽出され,必要に応じて,エビデンスをまとめた表を作成した.全体の調査結果はナラティブ様式でまとめられた.知見と考察インプラント周囲炎の現在の定義 インプラント周囲炎は,インプラント周囲組織に起こる病的な状態で,インプラント周囲粘膜の炎症と進行性の骨喪失を特徴とする1,4. 臨床において,軟組織の炎症はプロービングによって(bleeding on probing,BOP)検出でき,進行性の骨喪失はエックス線写真上で特定される. インプラント周囲炎における研究では,1)健康と疾患,2)インプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎,を識別するための定義と閾値の設定が必要となる.インプラント周囲炎の症例定義は研究ごとにかなり異なっているが5,疾患自体の定義には変わりはない.インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎への移行 歯肉炎から歯周炎への進行に類似し,インプラント周囲粘膜炎は,インプラント周囲炎に先立って起こると考えられている3.現在,インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎への移行を示す特徴や状態は示されていない. プラークの形成に対するインプラント周囲軟組織の反応は,動物での研究6-13とヒトにおける研究14-16で評価されている.プラークの形成はインプラント周囲軟組織の発赤や腫脹7といった臨床的な徴候を伴う炎症をつねに引き起こす14-16. Zitzmannら(2002)はヒトにおいて21日間にわたりプラークを形成させ,生検を行った13.組織学的な分析では,バリヤー上皮に隣接した軟組織に,B細胞,T細胞優位の炎症性細胞浸潤(ICT)が存在することが明らかになり,その範囲はおよそ0.14mm2であった16. 動物実験でも同様な結果が明らかにされており,炎症性病変の根尖側への進行がみられた7,9,10,12.調査されたインプラントの多くにおいて病変部はバリヤー上皮の側面にあり,健全な結合組織部によって歯槽骨から隔てられている.しかし,ある研究では,部位によっては上皮下結合組織に炎症細胞の浸潤がみられ(CD68陽性細胞など),インプラント周囲骨上の健全な結合組織部が減少していた7.プラーク形成後16週で,歯槽骨頂からICTの根尖側までの距離が1.0~1.9mmであった.また,1本のインプラントではICTが歯槽骨まで到達していた7.ICTの根尖側進展とそれに関連した骨喪失の正確な病理組織学的メカニズムはまだ明らかではない. 臨床的には,インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎への移行は,インプラント周囲粘膜炎に罹患している80名を対象とした,一つの後ろ向き観察研究で評価されている17.5年間で,インプラント周囲炎の発生率は定期的なメインテナンスを受けてない患者(43%)より定期的なメインテナンスを受けている患者(18%)のほうが低かった.

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