増補新版 インプラントセラピー
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379インプラント埋入後の角化粘膜の増大と口腔前庭の拡張 の角化粘膜内に加えることがもっとも重要であり、これにより組織の安定性とより良好な組織の混和を保証する。フラップの挙上は、骨膜が根尖側に5~6 mm露出するまでブレードを骨表面と平行に保ちながら、深い部分層切開によって行われる。この段階では、移植片を動かすことのできる筋肉の侵入を排除し、骨を覆う骨膜のみを残すことが重要である。これにより、口腔前庭の深さも可視化できる。骨から骨膜が容易に剥れる下顎臼歯部では、骨膜のみを残すことが困難であるため、特に注意を払わなければならない。そうでない場合、軟組織移植片を適切に安定させることが不可能となる。次のステップは、歯肉弁歯冠側移動術における表層の部分層切開を行うときのように、ブレードを粘膜面に平行に保ち、フラップの内部から筋性付着部を剥離することである。これにより、筋の牽引から解放された粘膜は、骨膜に固定する単純断続縫合により受容床の基部に縫合することができる(6-0ポリグリコール酸〔PGA〕縫合糸)。粘膜に筋肉を侵入したままだと、患者が口唇を引っ張るたびに、その力によって縫合糸が外れることがある。口蓋から採取した遊離歯肉移植片は、垂直径4~5 mm、近遠心径がインプラント径より約6 mm大きく(近心3 mm、遠心3 mm)、厚さ1.5~2 mm(図21-1g)を有する上皮付結合組織移植片である。供給部位の止血は、コラーゲンマトリックスまたはフィブリンスポンジのいずれかを使用し、隣接する個々の歯から懸垂して圧をかけたクロスマットレス縫合で安定させる。上皮付結合組織移植片は、いくつかの縫合法により受容部位で安定化する。角化粘膜内の水平切開の位置での単純断続縫合(7-0PGA縫合糸;図21-1h、21-1iの黒矢印)、根尖側近心および遠心の角の部分における骨膜固定をともなう外側性垂直マットレス縫合(6-0PGA縫合;図21-1h、21-1iの白矢印)、および移植片の根尖側の骨膜に固定し、インプラントのヒーリングアバットメントの周りに懸垂された圧縮水平マットレス縫合(6-0PGA縫合糸;図21-1h、21-1iの黄矢印)である。骨膜に固定をする外側性垂直マットレス縫合では、針がグラフトを貫通し、垂直切開の下をとおり、隣接する軟組織に出る(図21-1j)。その後、最初の出口の根尖側に再び入り、垂直減張切開の下を再度通過し、この際骨膜固定を得て移植片の根尖側から出て行く(図21-1k)。この縫合は移植片上の位置で外科結びにより閉じられる(図21-1l)。外科手術全体において、特にフラップ挙上の際は、補綴コンポーネント(インプラント支台のクラウンまたはヒーリングアバットメント)の脱着により、より容易になるが、一方、ヒーリングアバットメントは、懸垂縫合を配置するのに不可欠である。縫合後は、治癒期間に上皮付結合組織移植片が動くと手術手技が失敗する恐れがあるため、口唇および頬の動きで移植組織を不安定化させないようにしなければならない。図21-1(続き) (d)口腔衛生を損なうインプラント周囲組織の可動性の実証確認。(e)手術前、クラウンが取り外されヒーリングアバットメントが装着される。(f)外科処置:台形フラップデザインで、フラップを挙上し、筋の侵入を視認する。(g)遊離歯肉移植片。(h、i)受容床における上皮付き結合組織移植片の安定。インプラント埋入後の角化粘膜の増大と口腔前庭の拡張 defghi

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