基礎と臨床がつながる歯周解剖
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 歯学部生に「もっとも苦手な科目は何ですか?」と問うと、もっとも多い回答は間違いなく解剖学であろう。歯科衛生士学校や歯科技工士学校でも同様のようである。その一方で、卒後の歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士に「今、もう一度聞けるならどの科目を選びますか?」と聞くと、これまた解剖学だそうだ。一見矛盾するかのような、このような会話はどうして成立するのだろうか? 歯科医学の教育は大きく基礎系分野と臨床系分野に分けることができる。当然ながら、学生はまず基礎系分野から学び始めるが、臨床を経験しない者にとっての基礎医学はただの「暗記もの」でしかない。 その後臨床系分野を学び、無事国家試験にも合格したのちに、ふと気がつく。振り返れば解剖学的知識は臨床において非常に重要な情報だったと。しかし、いざ卒業してみると、臨床手技を取得するための講習会や学術書を見つけるのは容易でも、臨床を見据えたうえでの基礎医学系の講義や学術書はなかなか見つけることが難しい。この状態を「解剖学迷子」といい、冒頭のような会話につながる。 そこで私は、自身が約30年間にわたり歯周病学と解剖学の二足のわらじを履き続け、15年間あまり卒後教育に携わってきた経験をもとに、「歯周病学とインプ序文「解剖学迷子」のあなたへラント学の分野での基礎医学と臨床医学の隙間を埋める」ことができないかと考え、本書の執筆に取りかかった。 私の運営する教育プログラムの基本概念は「On the shoulders of giants、巨人の肩の上に乗って」である。このもととなったのは、万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンの言葉として有名な「If I see further, it is because I stand on the shoulders of gi-ants」である。ニュートンは、「どうしてそんなすばらしい発見ができるのですか?」というインタビューに対し、「もし私が他の人より優れているとしたら、先人たちが積み上げてきた基礎・基本(=“巨人の肩”)をしっかりと学び、そのうえで仕事をしているから」と答えたそうである。このエピソードは「基礎・基本を学ぶことが大切」とも言っているが、「すべての応用(アドバンス)は基礎・基本(ベーシック)の上に立脚している」とも言っているのだろう。 本書はこのようなコンセプトのもと、歯科医師のみならず、歯科衛生士、歯科技工士と各学生諸君に読んでいただいたとしても、それぞれの立場で内容が理解できるように工夫したつもりである。2020年8月牧草一人3

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