5.置換する材料の注意点 大前提となるのは再修復を行う材料にアレルゲンを含んでいないことである.ただ患者ごとにアレルゲンは異なり,何によってアレルギー反応が起きているのかで選ぶ材料は大きく異なってくる.また,修復する部位が臼歯部なのか前歯部なのか,咬合力がかかる部位なのかどうか,クリアランスがあるかどうか,咬合様式はどうなのか,フェルールは確保できているのかなど補綴学的な観点からも,長期的に維持安定が望めるように考える必要がある. 金属アレルギーを今まで発症してこなかった患者にも突然発症することがあるため,口腔内の修復物にはアレルギーの予防という考えからもメタルフリー治療を行うことが好ましい.ただ,メタルフリーはたしかに金属を使わず聞こえが良いかもしれない.しかしメタルフリー修復にもレジンを含む材料を用いることになる.レジンアレルギーのケースも報告されている昨今では,究極の治療法はメタルフリー修復ではなく,天然歯を残す,予防歯科であると言えるかもしれない. 近年は保険診療にも2016年1月よりファイバーコアが,またCAD/CAM冠が小臼歯部だけでなく,皮膚科にて金属アレルギーに陽性との診断があれば大臼歯部にも適応が可能になった.たいへん喜ばしいことである.ただ咬合力の強い患者や必要なだけのクリアランスが取れない場合などには補綴装置が破折することがある.やはり長期的な安定という観点では疑問が残るところである.また欠損補綴ではさらに頭を悩ます問題がある.現在のところ保険の範囲内においてメタルフリー材料で行うことのできるブリッジの材料はない.義歯で欠損補綴を行う場合でも保険で認められているパラジウム,コバルト,ニッケルなどに陽性反応が出れば作製がきわめて難しくなるのである. 補綴装置の長期安定や保険の限界ということを考えると,やはり金属アレルギー患者への再修復物としては保険外の材料を用いることが多くなってしまう.近年では生体親和性に優れた材料の台頭が目覚ましく,当院では金属アレルギーを有する患者の補綴に関しては,一般的にはセラミック修復と呼ばれるIPS e.max®(Ivoclar Vivadent)に代表される二ケイ酸リチウムやガラスセラミックであるジルコニアなどがメインになっている(図5). 最近ではフルジルコニアと呼ばれるジルコニア自体に色調を持たせた材料の出現により,ポーセレンを築成せずにそのまま用いることができ,チッピングなどの心配が少なくなった.またポーセレンを築成する手間がないぶん技工料金も抑えることができ,患者にもリーズナブルに提供することが可能で,選択の幅が広がったように思える. しかし,ここで疑問に思われる方も多いだろう.上記のセラミックスはアレルゲンになり得ないかということである. 現在のところ,セラミックスはアレルゲンになり得るという報告はなく,非常に安定しており,イオン化することはないとされているため,金属アレルギー患者には非常にありがたい材料と言えるだろう.ただし,上記の修復物を口腔内にセットするにはレジンセメントを一緒に用いることが多い.図5a~c IPS e.max®による修復処置.基本的にアレルギーの有無にかかわらず,アレルギーになりづらいセラミック修復,レジン修復が望ましい.acb54
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