集まれ!訪問歯科衛生士ビギナーズ在宅口腔衛生管理スタートブック
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Chapter8 歯科衛生士が行う基本的な口腔ケア技術嚥下機能低下&開口状態が続いていた患者さん ▶ ジェルタイプを使用し、粘膜の湿潤に努めた2case 同じく、90代女性の患者さん(表8-5)は、口腔ケアの希望があり、訪問診療を始めてから5年間、週1回口腔ケアを行っている方です。最初は介助で食事をされていましたが、認知症が進行して、1年ほど前から経鼻胃管のみからの食事となりました。図8-24は経鼻胃管後約6ヵ月の口腔内のようすです。開口状態も続き、口腔内を見ると口から喉までを覆わんばかりの痂皮がよく観察されたため、介護者に口腔の汚染を説明し口腔ケアの協力を仰ぎました。 主に、口腔保湿剤を使って痂皮をふやかし、拭き取り除去を行ってもらいました(表8-6)。痰があったときは(唾液が多いときは)吸引器を用いて咽頭へ汚染物が流れ込まないように行いましたが、この患者さんは、唾液の流出が比較的少なく乾燥の強い場合が多かったため、ほとんど拭き取りで対応可能でした。むしろ乾燥による痂皮化を防ぐことが優先されました。室内に加湿器を置いていただくようにしたところ、口腔内の痂皮の量が減りました。引き続き粘膜の湿潤の維持(ジェルタイプの口腔保湿剤の塗布、加湿器、口腔ケア)を意識していただきました。図8-25は経鼻胃管9ヵ月後の口腔内です。胃ろうで口から食事を摂っていなかった患者さん ▶ 痂皮の除去+口腔ケア時の擦過軽減に使用年齢・性別90代・女性依頼内容食事摂取の再開に向けた嚥下評価と義歯装着全身的既往歴多発性脳梗塞食事胃ろう表8-3 患者情報1case症例で口腔保湿剤の使い方を見てみよう角田愛美 歯科医師 この90代女性の患者さんは、多発性脳梗塞を起こした後、胃ろうを造設されていました(表8-3)。食事摂取の再開に向けての嚥下評価と義歯の装着を希望されての依頼でした。初診時の口腔内は、粘膜表面の乾燥や痂皮の付着など、食事をしていない方に特徴的な状態でした(図8-22)。 まず、口腔内の衛生状態の向上と粘膜の機能の正常化のために口腔ケアが必要と判断し、口腔保湿剤を使用して行いました。また、介護者につねに痂皮や痰の有無を確認してもらうため、そして少しでも湿潤状態を維持するために、口腔ケア後も口腔保湿剤を塗布するよう指導しました(表8-4)。 この方は、初回の口腔ケア後、アイスクリームを毎日2口程度食べ始めました。図8-23は、初診から2週間後の口腔内のようすです。使用のタイミング①口腔ケアの開始時から、②口腔ケア終了後使用目的①痂皮の除去、口腔ケア時のダメージの軽減、口腔粘膜の湿潤、②口腔内の環境維持、汚染の発見、介護者側の意識向上口腔保湿剤のタイプ①②ともジェルタイプ使用方法口腔粘膜に手指で塗布表8-4 口腔保湿剤の使い方図8-23 初診から2週間後の口腔内図8-22 初診時の口腔内ご入院中は絶食であったことと、その後胃ろう造設のため口から食べていなかった(機能させていなかった)結果、口腔内は驚くほど汚染されてしまっていた。口腔ケアを開始しただけでなく、食べる機能も再獲得されたため、口腔内から痂皮が消え、粘膜が正常となった。99

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