新時代の歯周外科
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PeriodontalSurgeon’sBible歯肉と歯槽骨の吸収についての考察 歯周炎によって歯肉と骨は吸収する.これは,歯周病原細菌によって産生される酵素や代謝産物などに対して生体の防御機構が働き,生体はこれらから逃げるようにして物理的な距離をとるためである.その結果,アタッチメントロスが生じる.臨床的には歯周ポケットの深化が測定され,supracrestal tissue attachmentはCEJから根尖側へと移動する. しかし,歯周炎の主因は細菌性プラークであるから,バイオフィルムとプラークリテンションファクターさえ除去すれば,炎症は消失し歯周組織は治癒に至り,もとの正常な形態に戻るはずである.しかし,中等度の歯周病となれば実際のところはそうはならず,炎症は消失すれど,一旦吸収した歯槽骨は残念ながら元の形には戻ってくれない.さらに,原因である歯が抜歯に至り,歯槽骨が長期に苦しめられた細菌性プラークの刺激から決別できたとしても,それでもなお,歯槽堤と歯間乳頭はある段階まで吸収を止めようとはしない. その理由,そしてメカニズムの詳細は不明であるが,抜歯後の歯槽堤は狭小化するのがつねである.この現象はこれまでも数々の形態計測研究によって検証され1,抜歯後の顎堤の吸収は3〜6か月の期間でもっとも進行し,頬側骨の吸収を中心に水平方向に29〜63%(2.46〜4.56mm),垂直方向に11〜22%(0.8〜1.5mm)減少すると報告されている2. 歯周組織の吸収に対するアプローチは,当然のことながら抜歯するか,歯を保存するかで治療法が異なる.歯を残す場合には,まず炎症の除去が最優先で,これを消失させた後にポケットの減少を図り,必要に応じて退縮した歯肉や歯間乳頭の増生を試みる.これらの対応策としては,根面被覆術と歯間乳頭形成術がその選択肢となりうる. 一方,抜歯が適当と診断された場合には,抜歯後の歯周組織の吸収を最小限にするために歯槽堤保存術(alveolar ridge preservation:以下,ARP)を併用することが望ましい.また,すでに抜歯が施術され,歯槽堤が経時的に吸収されている症例においては,歯槽堤増大術(alveolar ridge augmentation:以下,ARA)がその適応となる.これらの歯周外科処置はいずれも,Clinical Periodontal Surgical Treeにおいては,Anatomical/Morphologic Surgeryに属する「Esthetic surgery」の術式に分類される(第4章参照). 本章では,歯間乳頭形成術と歯槽堤保存術,さらには軟組織移植による歯槽堤増大術を詳述するが,その前にesthetic surgeryには欠かせないconnective tissue graft(以下,CTG)について解説したい(図1〜5).遊離歯肉結合組織の採取法 歯肉の増大を目的とした歯周形成外科では有茎弁による結合組織移植は稀で,遊離歯肉移植術が中心となり,上皮付きか,あるいは結合組織のみかは受容側の角化歯肉の状態により選択される. その供給側として,上顎の口蓋部を用いることが一般的であるが,筆者は上顎結節を選択することも多い.神経,血管束の解剖学的な走行が少ないため,術後の疼痛や出血が少なく,供給側歯肉の術後の壊死などの合併症も起こりにくいという点がその理由である.また,組織学的に同部は脂肪組織が少なく線維性に富んだ結合組織を有しており,移植後の歯肉収縮が少ないという利点も期待できる3〜5(図2). 筆者の臨床実感としては,上顎結節から得た歯肉移植術後の供給側の収縮はなく,むしろ増殖傾向にあり,口蓋から採取した歯肉とはやや異なる術後経過をたどる. しかし,この特徴は時として欠点にもなる.術後の増殖が旺盛すぎて術後に歯肉切除が必要なる場合もあり,また,上皮を除去した移植片であるにもかかわらず,まるでFGG後のように,受容側に白く島状に浮き出ることもある5.このあたりのEBMはまだ確立されているとは言い難いが,これらの利点・欠点を適切に把握できていれば,microsurgeryの術式のオプションとして上顎結節の結合組織を使わない手はない(図3).158

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