攻めのクラウン・ブリッジ
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200Ingenuity of the Crown & Bridge Restoration1.支台歯形成の付着(接合)上皮への影響を分子生物学的観点より考察する1)EPMAおよびE-cadherinによるCaの動向分析 支台歯形成を歯肉縁下に行うことにより,歯質,築造材料あるいはインスツルメントの目減りからくる切削片などが生体内に侵入してしまう可能性がある.異物侵入は生体の排除機構の働きですべて排除されるとは限らないのは,メタルタトゥなどの観察から推察できる.異物侵入により生体はまず発赤する.発赤は細胞同士の結合を弱めることから,細胞同士を結合させるE-cadherinの動向は興味のあるところである.またE-cadherinはカルシウム(以下,Caと略)由来のリガンドであることから,Caの動向も気になるところである(症例100,101). そこで,Caの動向をみるために支台歯周囲の非脱灰切片を作製し,EPMAにてCaの存在部位を観察するとともに,免疫染色にてE-cadherinの存在部位を観察した.切片作製時,歯の存在は薄層切片を作製する際の障壁となり,多くは脱灰操作を加えてしまうため,Caの動向が把握しづらい面がある.筆者ら(共同研究者:広田一男)は,カニクイザルから支台歯形成された歯周組織のみを剥離切除して観察したところ,興味ある知見を得た. EPMAの元素分析により,口腔上皮(重層扁平上皮)を形成する部位にはE-cadherin由来と思われるCaが多く存在することが免疫染色との比較によりわかったが,この部位とは異なるマージン設定部位,つまり付着(接合)上皮付近にもCaが多く存在した.この結果から,細胞接着以外のCaがマージン付近に存在することがわかった.体内のCaは厳密な濃度勾配により均衡が保たれており,マージン局所でのCaの存在は免疫的な問題を示唆するものと考えられた.いずれにせよ,非脱灰切片をEPMAと免疫染色に同時に供することは有意義であった(図1,2).図1 カニクイザルの上顎小臼歯部の切片.左側がEPMA分析,右側が免疫染色である.両図とも同じ試料であるが,下方が歯肉頂で右側が歯の方向で左側が自由面である.頬側面(自由面)から歯肉溝にかけて上皮脚を有する有棘層において,EPMA分析でブルーのCa局在,またE-cadherin免疫染色において褐色の陽性反応を示していることがわかる.しかし,マージン設定位置相当部において,EPMA分析ではCa局在を認めるもE-cadherinによる細胞接着は認められないことから,このCaは歯肉固有層中の細胞外基質として存在する自由に動けるCaであることが推測される.図2 カニクイザル上顎第一大臼歯の辺縁歯肉部.マージン設定位置である付着(接合)上皮付近を観察すると,やはりCaの集積が多いことがわかる.CaCaSEM

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