臨床で遭遇する口腔粘膜疾患に強くなる本
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38歯科医院の診断力・対応力UP! 臨床で遭遇する口腔粘膜疾患に強くなる本いる.自分自身のリンパ球が局所に集まってきて粘膜組織を攻撃するため,粘膜上皮が破壊されてただれたり(紅斑),逆に防御反応で厚くなって白斑になるというものである. 上記のように,典型的でない病変の診断は難しいことに加えて,白板症ほど高率ではないが癌化することがある(口腔潜在的悪性疾患)ので,できれば生検と病理組織診断を行うのが望ましい. 治療は通常,副腎皮質ステロイドの軟膏,噴霧薬,または含嗽薬が用いられる.慢性の経過をたどり,治療が効きづらいことが多いため,これらのステロイド外用薬が長期間にわたって継続投与される症例が大部分である.そのため,とくに義歯を装着した高齢者では副作用として口腔カンジダ症の発症がしばしば問題になる.また口腔衛生状態が不良だと,症状が強く出たり治療が効きづらかったりすることも多い.そのため扁平苔癬患者の口腔ケアでは,これらの点をつねに留意し,刺激の少ない歯磨剤や含嗽薬を選択しつつ効果的な指導を行えば,治療に大いに貢献する. 口腔扁平苔癬は,白斑(粘膜が白くなった部分)と紅斑(粘膜の赤みが強くなった部分)が混ざり合った特徴的な臨床像を示す.典型的なものは,図5,6にみられるような左右の粘膜に生じる「レース状」の病変である.これに次いでよくみられるのが,大きな紅斑を白斑が縁取ったタイプで,これは下顎大臼歯部の歯肉頬移行部に多い.他にも色々なパターンがあり,典型的なもの以外は診断が比較的難しい. 患者は50〜70歳代に多く,女性の患者は男性の2倍以上である.もっとも多い主訴は「ヒリヒリする」「食べ物がしみる」だが,自覚症状がないこともある.この疾患の臨床的な特徴は,①慢性の経過をたどること,②自覚症状・他覚症状の強さに波がある(軽快と増悪を繰り返す)こと,③自然に治癒することは通常なく,④治療がなかなか効きづらいことである.精神的ストレスなどで症状が増悪することも多いとされる. 原因は不明だが,自分の粘膜組織に対するアレルギー反応(自己免疫疾患)ではないかといわれて歯科衛生士もおさえておきたいポイント診断力・対応力UP!参考文献1.Nogueira PA, Carneiro S, Ramos-e-Silva M. Oral lichen planus: an update on its pathogenesis. Int J Dermatol 2015;54(9):1005‐1010.2.Ito D, Sugawara Y, Jinbu Y, Nakamura S, Fujibayashi T, Maeda H, Hasegawa H, Saku T, Tanaka A, Komiyama K. A retrospective multi-institutional study on the clinical categorization and diagnosis of oral lichen planus. J Oral Maxillofac Surg Med Pathol 2017;29(5):452‐457.3.伊東大典,佐藤昌,栗林悠里,チャーンウィット・プラピンチャムルーン,小村健.口腔扁平苔癬135例の臨床的検討.日口腔粘膜会誌 2009;15(1):22‐28.4.Dionne KR, Warnakulasuriya S, Zain RB, Cheong SC. Potentially malignant disorders of the oral cavity:current practice and future directions in the clinic and laboratory. Int J Cancer 2015;136(3):503‐515.

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