新版 開業医のための接触嚥下機能改善と装置の作り方 超入門
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uestionnswer 2018(平成30)年度の保険改定で初めて収載された新病名「口腔機能低下症」は、65歳以上の高齢者を対象とした歯科では初めての「機能低下を主体とした複合的な疾患概念」です1。ここでは「口腔機能低下症」が提案される背景となった超高齢社会において求められる歯科の役割と、この病名に含まれる病態について解説します。1)高齢期のオーラルフレイル 口腔が正常な機能(食べる、しゃべる)を営むためには、歯や歯周組織が健康であるだけでなく、それぞれの運動器官(顎、舌、口唇、頬など)が口腔内の形態(歯、歯列、口蓋など)と調和して正しく動くこと、またそれらを取り巻く環境的な因子(唾液、口腔内の汚れ)が適切であることが必要です。高齢者になれば、誰でもこうした運動、形態、環境などの因子が衰えていくというわけではありません。しかし、口腔の健康に対する無関心により、口腔が不潔となり、う蝕や歯周病が悪化して歯の欠損が増えると、自由に食べたりしゃべったりすることができないオーラルフレイルの状態(表1)になります。2)「口腔機能低下症」の概念と目的 オーラルフレイルと全身のフレイルは栄養を介して相互に影響し合っており、全身のフレイルが進む過程で何らかの疾患が生じて長期間療養することになった場合、あるいは疾患の後遺症によって、オーラルフレイルの状態から一気に摂食嚥下障害に陥ってしまうことが、しばしばあります。摂食嚥下障害は長期間の専門的なリハビリテーションが必要であり、医療・介護費用は膨大なものとなります。「口腔機能低下症」は、こうしたオーラルフレイルの進行を、一般歯科医でも十分可能な取り組みによって少しでも抑制し、逆に回復させるために開発された「複合的な疾患概念」です(図1)。3)「口腔機能低下症」の病態 「口腔機能低下症」には、つぎの7つの病態(下位症状)が含まれます。それぞれの要点を以下に解説します。①口腔衛生状態不良 口腔内が不潔であることによって微生物が増殖している状態です。う蝕、歯周病のリスクだけでなく、口臭の原因となり、さらに嚥下障害が重なると誤嚥性肺炎につながります。機器を用いて口腔内の細菌数を測定するか、舌苔の付着度を規格化された方法で評価して、口腔衛生状態が不良かどうかを判定します。表1 オーラルフレイルの諸症状原 因症 状口腔健康への無関心口腔衛生習慣の悪化・口臭が強い・歯が抜けていく口唇機能の低下・食事中に食べこぼしをする舌機能の低下・発音が不明瞭になる(ろれつが回らない)・飲み込みにくくなる唾液分泌機能の低下・口が渇く咬合力の低下舌機能の低下咀嚼能力の低下・硬いものが食べにくい・軟らかいものを好んで食べる・食事に時間がかかる嚥下機能の低下・食事中にむせる第1章口腔機能低下症とは121口腔機能低下症にはどのような病態が含まれますか?<口腔機能低下症とは>

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