インプラントの迷信と真実
3/6

Chapter4 補綴処置に関する迷信8インプラントと天然歯との連結は禁忌である迷場合によっては十分許容されうる選択肢である真●昔は良かったけれど、今はダメ? 口腔内診査の際、患者の口腔内にかなり以前に行われたと思われるインプラント‐天然歯を連結した固定性補綴装置(T-I FDP)をときどき見かけることがある。そのような症例は「黎明期の誤り」と一蹴し、禁忌と考えるべきなのだろうか? 挙動の異なる支台を連結することはやはりダメなのだろうか? 日本口腔インプラント学会の最新の治療指針によると「天然歯との連結は原則的に避ける」との記述があり、おおむね本邦におけるコンセンサスも同様なものではないかと思われる。 実際、Langら1のシステマティックレビューによると、インプラントの5年生存率は90.1%、10年生存率は82.1%であった。上部構造の存続率は5年後が94.1%、10年後が77.8%であった。同グループの分析2によると、これらの存続率はインプラントのみの支持による固定性インプラント義歯よりも有意に低かった。 また、5年観察期間後、天然支台歯の圧下が5.2%に認められ、そのほとんどがノンリジッドな連結だった。しかし、これらに包含された研究の大半は、機械研磨表面だったり、非チタンインプラントだったりして、現行のインプラントシステムとは異なることを考慮に入れなければならないかもしれない。 その一方、スウェーデンでのナショナルガイドラインでは1~10段階中、レベル5というまずまずの推奨度となっている。 これらの状況をどのように理解したらよいのだろうか?●そこまで成績は悪いのか? Tangerudら3はリジットタイプの連結方式で、3年の前向き研究を行った。インプラントの生存率は、上顎では91%、下顎では95.5%であった。 Nickenigら4によると、平均約5年の観察期間中、インプラント142本すべて問題なく、天然歯132本中3本が歯周病により喪失した。84装置のうち、2装置が失われた。存続率に換算するとこれは97.6%となり、決して悪い結果ではない。しかし、連結方式がリジッドタイプでは機械的併発症がなかったのに対して、ノンリジッドタイプではわずかながら生じた。 これらから、著者(中居)は、臨床上の種々の制約下では一概に否定することなく、その特徴を理解したうえで、第二の選択肢として利用することは正当化されても良いと考えている。●連結方式~リジッドとノンリジッド しかしながら、これまで上記の報告も含めて、ノンリジッドタイプでは①天然歯の圧下②機械的併発症が多いことが指摘されている。 Cordaroら5は、フルアーチでのT-I FDPの平均約3年後の予後をリジッドとノンリジッドに分けて分析したインプラントの生存率は99%、うち成功率すなわち2mm以下の骨喪失のものが96%あった。この研究では、天然歯を歯周支持組織が2/3以下になった群(R群)とそれ以上の正常群(N群)とに分けて分析された。天然歯72本中4本に圧下が認められたが、興味深いことにR群には生じずに、それらのすべてはノンリジッドのN群だけに認められた。●T-I FDPの設計 これらのことから基本的には、T-I FDPにはリジッドタイプを使用すべきであるが、インプラント部の上部構造には可撤性を具備させたいことから、その補綴設計には図4-8-1のように種々の工夫が必要になるだろう。エビデンスで検討すると…図4-8-1  インプラント上部構造部に可撤性を持たせた補綴設計の一例。欠損部をダブルクラウン様としてスクリュー固定できるようにし、同時にリジッドアームを付与する一方、天然歯部はセメント合着できる。102

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る