薬YEARBOOK2019
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本書の構成6別冊 the Quintessence降圧薬22別冊 the Quintessence 高血圧(表1)が放置されると脳・心血管疾患の罹患率が高くなり,血圧が高ければ高いほど死亡リスクは上昇するので、高血圧治療の目的は脳・心血管疾患発生の予防である。 高血圧患者の降圧目標は、年齢や合併症の有無により異なる。診察室血圧は、140/90mmHg未満が降圧目標であるが、75歳以上の後期高齢者は150/90mmHg未満、糖尿病、蛋白尿を有する慢性腎臓病では130/80mmHgとなっている。家庭血圧の降圧目標は診察室血圧から5mmHg低い値である。 食事療法(減塩、コレステロールの摂取制限など)、減量、運動、節酒、禁煙の生活習慣の改善のみで降圧効果がみられない場合や心血管病発症リスクの高い患者には、降圧薬治療が開始される。2014年の本邦の高血圧治療ガイドラインでは、合併症を有さない高血圧の第一選択薬は、カルシウム(Ca)拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、利尿薬で、β遮断薬は除外された。妊婦高血圧に対しては、メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロールの3剤が第一選択薬とされ、妊娠20週以降では、さらにニフェジピンも第一選択薬となった。 一般的には、降圧薬の投与は単剤を少量から開始するが、副作用の出現、降圧効果が不十分な場合は、他の降圧薬に変更するか数種類の降圧薬が併用される。ARBとACEのレニン‐アンジオテンシン(RA)系阻害薬とCa拮抗薬、RA系阻害薬と利尿薬、Ca拮抗薬と利尿薬の併用が推奨されている。降圧薬の配合薬は第一選択となっていない。配合薬には、ARB+利尿薬、ARB+Ca拮抗薬、Ca拮抗薬+スタチンがある。 降圧薬は、一日一回服用の薬剤が多い。血圧は季節変動があり、夏季に血圧が低下する患者では降圧薬の減量あるいは中止、冬季には血圧が上昇する場合は増量や再投与が考慮されることがある。1.各降圧薬の作用機序 Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬は末梢血管抵抗を減らし、血圧を下げる。Ca拮抗薬は、血圧上昇の原因となる、血管の筋肉(血管平滑筋)へのカルシウムの流出を抑え、血管を拡げて血圧を下げる薬である。ARBは、血管を収縮させるアンジオテンシンⅡが受容体に結合するのを阻害、ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡを作る酵素の働きを阻害してアンギオテンシンⅡの生成を抑え、血管を拡げて血圧を下げる薬である。一方、利尿薬は、腎尿細管でのナトリウムと水の再吸収を抑制し尿の出を良くして循環血液量を減少させ降圧する。Hypertension降圧薬分類収縮期血圧拡張期血圧正常域血圧至適血圧<120    かつ    <80正常血圧120~129 かつ/または 80~84正常高値血圧130~139 かつ/または 85~89高血圧Ⅰ度高血圧140~159 かつ/または 90~99Ⅱ度高血圧160~179 かつ/または 100~109Ⅲ度高血圧≧180 かつ/または ≧110(孤立性)収縮期高血圧≧140    かつ    <90表1 成人における血圧値の分類(mmHg)降圧薬薬 YEARBOOK '19/'20232.各降圧薬の特徴と副作用 Ca拮抗薬には強力な降圧効果があり、多くの症例で第一選択薬となっている。高齢者や各種臓器障害を合併している患者でも適応される。副作用は、動悸、頭痛、ほてり感、浮腫、便秘などで、歯肉増生を認めることがある。 ACE阻害薬は、心負荷軽減のため心不全にも有効である。糖尿病、心不全、脳循環不全などの合併症例で第一選択薬であるが、アリスキレン投与中の糖尿病には禁忌である。副作用は、ブラジキニンの作用増強による空咳が多く、血管神経性浮腫もある。まれに、同薬剤服用患者で顔面・舌などの浮腫が出現し、呼吸困難をきたす場合があるので注意する。 ARBは、副作用が少なく、ACE阻害薬と同等以上の降圧効果を有し、さらに、心臓や腎臓などの臓器に対する保護作用に優れ、使用が急増している。ACE阻害薬と異なり、キニンの分解を阻止する作用がなく、咳、発疹、血管浮腫などが少ない。 利尿薬は副作用を予防するために少量を用い、他の薬と合わせて処方されることが多い。3.薬物相互作用 降圧薬どうしの相互作用には、降圧効果を高めたり、副作用を相殺するなど好ましい組み合わせがある反面、副作用が増強される場合もある。β遮断薬とCa拮抗薬ジルチアゼムの併用による徐脈、RA系阻害薬とカリウム保持性利尿薬の高カリウム血症などがある。 他疾患の治療薬と降圧薬の薬物相互作用では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬、ARBの降圧効果減弱作用、ヒスタミンH2受容体拮抗薬によるCa拮抗薬、β遮断薬の降圧増強作用、ジゴキシンと非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬併用によるジゴキシンの血中濃度上昇、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬と抗真菌薬や抗菌薬との相互作用などがある。ARBやACE阻害薬とNSAIDsあるいは利尿薬の併用は、特に高齢者で飲水不良や嘔吐・下痢、過度の発汗などによる脱水や塩分摂取制限があると、急性腎不全や過度な降圧をきたすことがある。食品と降圧薬の相互作用では、グレープフルーツあるいはそのジュースは、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の作用を増強する。ACE 阻害薬直接的レニン阻害薬利尿薬β遮断薬ARBカルシウム拮抗薬α遮断薬アンジオテンシノーゲンアンジオテンシンⅠアンジオテンシンⅡキマーゼ平滑筋レニン循環血液量を減らすβ受容体心拍出量を減らす交感神経A-Ⅱ受容体Ca チャネルα受容体血管を拡張するACE(アンジオテンシン変換酵素)図1 降圧薬の薬理作用。概論それぞれの薬について初めに概要を掲載本書の構成降圧薬26別冊 the QuintessenceAtenololアテノロール【剤 形】錠 アドレナリン受容体遮断薬のひとつ。β受容体のうちβ1受容体を選択的に遮断し、心機能を抑制して血圧を下げる。また腎臓のβ1受容体が遮断されることでレニン分泌が抑制され、レニン・アンジオテンシン・アルデステロン系(RAA系)の昇圧作用が抑えられる。また、この受容体選択性により気管支平滑筋への刺激作用が少ない。効能・効果軽度~中等度の本態性高血圧症狭心症、頻脈性不整脈(洞性頻脈、期外収縮)降圧薬としての用法・用量50mgを1日1回、上限100mg、年齢、症状により適宜増減禁忌本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある者、糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシス、高度あるいは症状を呈する徐脈、第2度、第3度の房室ブロック、洞房ブロック、洞不全症候群、心原性ショック、肺高血圧症による右心不全、うっ血性心不全、低血圧症、重度末梢循環障害、未治療の褐色細胞腫の患者副作用重大な副作用:徐脈、心不全、心胸比肥大、房室ブロック、洞房ブロック、失神を伴う起立性低血圧、呼吸困難、気管支痙攣、喘鳴、血小板減少症、紫斑病半減期50mgでおよそ11時間【商品名】テノーミンアテノロール「イセイ」「サワイ」「タイヨー」「ツルハラ」「トーワ」「日新」「ファイザー」「JG」「NikP」「NP」アルセノールアルマイラークシセミン薬 YEARBOOK '19/'2027アテノロール表 歯科医院で処方される主な併用薬との相互作用※高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進、糖尿病のある患者および血管攣縮の既往のある患者におけるアドレナリン含有局所麻酔薬の使用は原則禁忌。One Point 高齢者の高血圧患者では、NSAIDSを投与する場合少量を一定期間使用してきめ細かい観察と腎機能のチェックが必要であり、腎機能低下が認められた場合、当該薬剤を中止できなければアセトアミノフェンへの変更も考慮する(高血圧治療ガイドライン2014)。NSAIDSが本剤の降圧効果を減弱することがある ……処方可   ……慎重を要する   ……減量、休薬など   ……併用禁忌/原則禁忌併用薬相互作用方策抗菌薬サワシリン(アモキシシリン水和物)特になし処方可ケフラール(セファクロル)特になし処方可フロモックス(セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物)特になし処方可メイアクトMS(セフジトレン ピボキシル)特になし処方可クラリシッド、クラリス(クラリスロマイシン)特になし処方可ジスロマック(アジスロマイシン水和物)特になし処方可クラビット(レボフロキサシン水和物)特になし処方可抗炎症薬および鎮痛薬カロナール(アセトアミノフェン)特になし処方可SG(イソプロピルアンチピリン、アセトアミノフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素、無水カフェイン)特になし処方可ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム水和物)本剤の降圧作用減弱、腎機能悪化のおそれ――非ステロイド性抗炎症薬のプロスタグランジン合成阻害による慎重を要するボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)本剤の降圧作用減弱、腎機能悪化のおそれ――非ステロイド性抗炎症薬のプロスタグランジン合成阻害による慎重を要する抗真菌薬または抗ウイルス薬フロリード(ミコナゾール)特になし処方可イトリゾール(イトラコナゾール)特になし処方可バルトレックス(バラシクロビル塩酸塩)特になし処方可ゾビラックス(アシクロビル)特になし処方可局所麻酔薬エピリド、オーラ、キシロカイン(アドレナリン含有リドカイン塩酸塩)本剤との相互作用に記載はないが、高血圧患者へのアドレナリン含有局所麻酔薬の使用は原則禁忌。特に必要とする場合には慎重に投与する※原則禁忌シタネスト-オクタプレシン(プロピトカイン塩酸塩・フェリプレシン)特になし処方可胃粘膜保護薬ムコスタ(レバミピド)特になし処方可ドラッグインフォメーション(効能・効果、警告、禁忌、用法・用量、副作用、半減期)One Point注意すべき相互作用、口腔内に現れることのある副作用などの情報を掲載処方について4つの選択肢を提示処方可慎重を要する減量・休薬など……対診して薬の減量、変更、あるいは処方を継続する等の相談を行う併用禁忌一般名・薬の説明商品名剤形と写真歯科で使用する主な薬を併用薬として掲載歯科の薬を併用したときの相互作用の症状と機序を掲載降圧薬・糖尿病治療薬・抗血栓薬・脂質異常症治療薬・向精神薬・骨吸収抑制薬・抗アレルギー薬・抗悪性腫瘍薬・漢方薬掲載薬123456897

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