YEARBOOK 2019 歯周組織再生療法のすべて
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 垂直性骨欠損をともなう歯に固定式のブリッジを計画した際に,その支台歯が切除療法では生理的な骨形態に改善することが難しい場合,歯周組織再生療法を先行して軽度な骨吸収の状態に改善できれば理想的である.そして,最終的に骨外科をともなう切除療法を応用し,生理的な歯槽骨形態と生物学的幅径1を確立した十分な厚みのある角化粘膜を獲得できれば,長期的に予知性の高い補綴修復が期待できる.本症例では,重度慢性歯周炎を歯周組織再生療法と切除療法で対応した治療経過を提示し考察していきたいと思う.図1,2 術前・術後の比較.抄録About the Author佐藤憲治神奈川県開業 さとう歯科医院連絡先:〒225‐0012 神奈川県川崎市宮前区宮崎1‐8‐10 田毎ビル3F略 歴1986年 日本歯科大学歯学部卒業1986~1991年 一般開業医勤務1991年 さとう歯科医院開業所属学会・勉強会日本臨床歯周病学会認定医,日本歯周病学会会員,日本成人矯正歯科学会会員,JIADSペリオコース講師,JIADS Study Club Tokyo(JSCT)会員,OJ正会員,AAP会員再生療法,学びの遍歴12❶再生療法をどうやって学んだか:JIADSペリオコース❷再生療法を行うようになってからの年数:20年以上❸年間平均オペ数:7~12症例PART29ブリッジ支台歯の骨欠損に対し 歯周組織再生療法と切除療法を 行った一症例別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2019」140p140-152_YB2019_2-9_satou.indd 1402018/12/06 13:329 ブリッジ支台歯の骨欠損に対し歯周組織再生療法と切除療法を行った一症例 BL 一般的に歯周外科を行えない全身状態は除き,基本的に喫煙者は禁煙指導から行っている.多くの情報からわかるように,喫煙者の歯周組織は線維化の亢進や有害物質の影響で治癒を悪くする2.また,糖尿病に罹患している場合は,日本歯周病学会のガイドライン3を基準にHbA1c:6.9(世界基準)以下を目安としている. 口腔内の問題としては,以下に述べることが重要と考える.① 歯の動揺を暫間固定で止められるかどうか,② 必要があれば補綴による永久固定ができるかどうか,③ 失活歯であれば根尖病変や歯根破折がないか,④ 根と根の近接がないかどうか,などを注意深く診査しなくてならない. 大臼歯部においては,根分岐部の開口位置やルートトランクの長さ,根の離開度など,解剖学的にデブライドメントができるかどうかが重要である.また,根分岐部が隣接歯間部の骨レベルのより低い位置(図3参照)にあることが大臼歯の歯周組織再生療法を選択するうえでとくに重要である. その他の判断基準としては,初期治療時において除石後も排膿が収まらないケースは,宿主側の免疫力に問題がないかをある程度考慮すべきであると筆者は考える.また,初期治療後に歯肉の状態が改善傾向にあるケースは,歯周組織再生療法の予後が良いように感じる.歯周組織再生療法:私の適応・判断基準1.非喫煙者であること.2.解剖学的にデブライドメントができる根形態かどうか.3.動揺歯の暫間固定をできるかどうか.適応・判断基準のポイント!図3 大臼歯に歯周組織再生療法を選択する際,ルートトランクが比較的長く,分岐部の骨レベルが隣接歯間部の骨レベルより低いことが望ましい.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2019」1419p140-152_YB2019_2-9_satou.indd 1412018/12/06 13:32歯周組織再生療法:患者説明の実際歯周組織再生療法:私の器具・材料チョイス 歯周病の原因が細菌感染であることを認識させ,プラークコントロールの重要性を理解してもらう.歯周病原細菌に対する免疫力や細菌叢には個体差があり,中等度~重度の歯周病患者は,歯周病に罹患しやすい口腔内環境であることを認識してもらう.理解が得られた場合は,精度の高い細菌検査を行い数値として認識してもらう. 適応症については,水平性骨吸収と垂直性骨吸収の違いを説明し,歯周組織再生療法の限界を理解していただいたうえで,抜歯か切除療法か歯周組織再生療法かの選択肢を提示する. 切開は,基本的に歯間乳頭部にはマイクロブレードを使用している.その他の乳頭部周辺のフラップには12d,15cを使用し,もっとも繊細な歯間乳頭部の剥離は先の小さなTGOとピエゾチップ(PR1)を使用している.上顎の口蓋側など歯間乳頭部以外の厚みのあるフラップは,オーシャンビンチゼル2番やキドニーシェープナイフを併用することが多い. 肉芽除去はコロンビアキュレットと川崎式キュレットを用いて大まかな掻爬を行い,その後ピエゾチップ各種とニューマイヤーバー(JIADS骨外科セット)を交互に使い,最後はキュレットで仕上げている. 再生材料は,EMD+非脱灰凍結乾燥他家骨(以下FDBA)を基本的に使用している4.骨欠損の大きな場合や2壁性などで移植骨の保持がしにくい症例は, 歯周組織再生療法の成功の目安としては,一般的に再生目標の60~70%と説明している.したがって,吸収が根尖近くに及ぶ重度の症例では中等度以上に改善することを目標とし,再生が不十分であれば再度の歯周組織再生療法の必要性があることを伝えておく.最終的に残存した不正な骨形態は,骨外科をともなう切除療法で改善することを理解してもらう. 治療期間は,歯周組織再生療法の結果がエックス線写真上で確認できる8~12か月を目安とし,再評価は12か月以上経過後に行うようにしている.吸収性コラーゲンで骨補填材をカバーすることが多い.本症例では,骨誘導能が期待できる脱灰凍結乾燥他家骨(以下,DFDBA)を用いているが,吸収が早いため,現在では,骨誘導能はDFDBAに劣るが骨伝導能がより期待できるFDBAを主に使用することが多い.しかし,時代とともに使用する材料は変遷するため,最新の情報をつねに比較検討して選択している.1.歯周病は歯周病原細菌による感染症のため,プラークコントロールが重要である.2. 歯周組織再生療法の限界を理解していただいたうえで,抜歯か切除療法か歯周組織再生療法かの選択肢を提示する.3. 歯周組織再生療法の結果がエックス線写真上で確認できるまで最低でも6~12か月以上かかる.患者説明のポイント!・EMD+FDBA・EMD+FDBA+吸収性コラーゲン膜私の第一選択材料別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2019」142PART2 症例で学ぶ歯周組織再生療法PART2p140-152_YB2019_2-9_satou.indd 1422018/12/06 13:32歯周組織再生療法:患者説明の実際歯周組織再生療法:私の器具・材料チョイス 歯周病の原因が細菌感染であることを認識させ,プラークコントロールの重要性を理解してもらう.歯周病原細菌に対する免疫力や細菌叢には個体差があり,中等度~重度の歯周病患者は,歯周病に罹患しやすい口腔内環境であることを認識してもらう.理解が得られた場合は,精度の高い細菌検査を行い数値として認識してもらう. 適応症については,水平性骨吸収と垂直性骨吸収の違いを説明し,歯周組織再生療法の限界を理解していただいたうえで,抜歯か切除療法か歯周組織再生療法かの選択肢を提示する. 切開は,基本的に歯間乳頭部にはマイクロブレードを使用している.その他の乳頭部周辺のフラップには12d,15cを使用し,もっとも繊細な歯間乳頭部の剥離は先の小さなTGOとピエゾチップ(PR1)を使用している.上顎の口蓋側など歯間乳頭部以外の厚みのあるフラップは,オーシャンビンチゼル2番やキドニーシェープナイフを併用することが多い. 肉芽除去はコロンビアキュレットと川崎式キュレットを用いて大まかな掻爬を行い,その後ピエゾチップ各種とニューマイヤーバー(JIADS骨外科セット)を交互に使い,最後はキュレットで仕上げている. 再生材料は,EMD+非脱灰凍結乾燥他家骨(以下FDBA)を基本的に使用している4.骨欠損の大きな場合や2壁性などで移植骨の保持がしにくい症例は, 歯周組織再生療法の成功の目安としては,一般的に再生目標の60~70%と説明している.したがって,吸収が根尖近くに及ぶ重度の症例では中等度以上に改善することを目標とし,再生が不十分であれば再度の歯周組織再生療法の必要性があることを伝えておく.最終的に残存した不正な骨形態は,骨外科をともなう切除療法で改善することを理解してもらう. 治療期間は,歯周組織再生療法の結果がエックス線写真上で確認できる8~12か月を目安とし,再評価は12か月以上経過後に行うようにしている.吸収性コラーゲンで骨補填材をカバーすることが多い.本症例では,骨誘導能が期待できる脱灰凍結乾燥他家骨(以下,DFDBA)を用いているが,吸収が早いため,現在では,骨誘導能はDFDBAに劣るが骨伝導能がより期待できるFDBAを主に使用することが多い.しかし,時代とともに使用する材料は変遷するため,最新の情報をつねに比較検討して選択している.1.歯周病は歯周病原細菌による感染症のため,プラークコントロールが重要である.2. 歯周組織再生療法の限界を理解していただいたうえで,抜歯か切除療法か歯周組織再生療法かの選択肢を提示する.3. 歯周組織再生療法の結果がエックス線写真上で確認できるまで最低でも6~12か月以上かかる.患者説明のポイント!・EMD+FDBA・EMD+FDBA+吸収性コラーゲン膜私の第一選択材料別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2019」142PART2 症例で学ぶ歯周組織再生療法PART2p140-152_YB2019_2-9_satou.indd 1422018/12/06 13:329 ブリッジ支台歯の骨欠損に対し歯周組織再生療法と切除療法を行った一症例 1 CK2マイクロブレード(ヨシダ):主に歯間乳頭部の切開に使用.2 12d 15c(フェザー替刃メス):主に歯間乳頭部以外に使用.3 TG-Oチゼル(JIADS事務局):主に歯間乳頭部の粘膜剥離に使用.4 JIADS骨外科セット(JIADS事務局):ニューマイヤーバー+ラウンドダイヤモンドバー(大小).5 ピエゾサージェリー®(インプラテックス):チップ各種(PR1,OP6,PS6,PP10,PP11等).6 川崎式キュレット#4,#5(両刃)(YDM):トゥーの部分が骨面の肉芽を掻爬するのに便利(※現在は,製造終了しKKタイプ#2,#4に改良されている).7 コロンビアユニバーサルキュレット4R/4L(両刃)(JIADS事務局):適度な幅と両刃であることより小回りがきく.8 キドニーシェイプナイフ(JIADS事務局):角度付きナイフなので大臼歯部遠心の骨膜剥離に便利.9 スピアーシェイプナイフ(JIADS事務局):歯間部の肉芽を骨面と分離するときに便利. オーシャンビンチゼル2(OCH-2)(JIADS事務局):口蓋の厚い歯肉を剥離するときに便利. ティッシュニッパー(JIADS事務局):フラップ内面の細かな肉芽を除去. 外科用吸引管(YDM):先が細く細部の吸引に使用. サージカルシルク4-0(ETHICON,松風バイオフィックス):歯周組織再生療法時の全層弁で剥離したフラップの固定と,リエントリー時の切除療法の際に主に使用.451672938別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2019」1439私の使用器具・材料チョイスp140-152_YB2019_2-9_satou.indd 1432018/12/06 13:32まとめ 歯周組織再生療法を成功に導くためには,患者選択と症例選択がもっとも重要である.とくに重度の骨欠損が認められる場合は,初期治療時に注意深く歯周組織の変化を観察し,初期治療後の炎症の改善度傾向で難治性が疑われる場合は,慎重に術式の選択をすべきである.難治性が疑われる場合,歯周病原細菌に対する免疫力の問題が疑われるため,歯周組織再生療法後の不整な骨形態や残存する歯周ポケットを除去することが重要であると思う. また,歯周組織再生療法が成功したとしても,治療後に歯根破折で抜歯となってしまっては歯周組織再生療法を選択した意味がないように思う.本症例では,残存歯を守るうえでも,インプラント治療を併用し咬合力を分散することで残存歯にかかる負担の軽減を試みた.パラファンクションの予防策として,メインテナンス時にナイトガードを使用している.参考文献1. Nevins M, Skurow HM. The intracrevicular restorative margin, the biologic width, and the maintenance of the gingival margin. Int J Periodontics Restorative Dent 1984;4(3):30‐49.2. 山本浩正.イラストで語るペリオのためのバイオロジー.東京:クインテッセンス出版,2002.3. 特定非営利活動法人日本歯周病学会(編).糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン.改訂第2版.東京:医歯薬出版,2015.4. Rosen PS, Reynolds MA. A retrospective case series comparing the use of demineralized freeze-dried bone allograft and freeze-dried bone allograft combined with enamel matrix derivative for the treat-ment of advanced osseous lesions. J Periodontol 2002;73(8):942‐949.5. 三辺正人,吉野敏明(編).細菌検査を用いた歯周治療のコンセプト.リスクコントロールとしての抗菌療法.東京:医学情報社,2005.6. Nobuto T, Suwa F, Kono T, Taguchi Y, Takahashi T, Kanemura N, Terada S, Imai H. Microvascular response in the periosteum fol-lowing mucoperiosteal ap surgery in dogs:angiogenesis and bone resorption and formation. J Periodontol 2005;76(8):1346‐1353.再生療法において拠り所としている論文・書籍❶吉江弘正,宮本泰和(編著).再生歯科のテクニックとサイエンス.東京:クインテッセンス出版,2005.❷小野善弘,宮本泰和,松井徳雄,浦野智,佐々木猛.コンセプトをもった予知性の高い歯周外科処置 改訂第2版.東京:クインテッセンス出版,2013.別冊the Quintessence 「YEARBOOK 2019」152PART2 症例で学ぶ歯周組織再生療法PART2p140-152_YB2019_2-9_satou.indd 1522018/12/06 13:32本書の特徴「PART2:症例で学ぶ歯周組織再生療法」はこう読む!「再生療法,学びの遍歴」では,「どうやって学んだか」,「再生療法の経験年数」「年間平均オペ数」を掲載.著者と再生療法とのかかわりについて紹介しています.再生療法では適応症の見極めが成否を分けます.「歯周組織再生療法:私の適応・判断基準」では,そのヒントとなる各著者の考えや方針を紹介しています.外科治療である再生療法に対し不安を抱く患者は少なくありません.どのように患者説明を行っているかについて,具体例を示しながら解説しています.1特徴2特徴3特徴著者が再生療法の際にどんな器具や材料を使っているかは気になるところ.「私の第一選択材料」は,マテリアル選択の際に参考になります.本別冊の“肝”ともいえる「私の使用器具・材料チョイス」では,著者お気に入りの製品を写真付きで紹介.ご自身に合った器具に出会えるかもしれません.論文の最終ページには,本文中の参考文献とは別に,各著者が再生療法時に拠りどころとしている書籍・論文を紹介.気になるものはぜひチェック.4特徴5特徴6特徴

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