エンドに必要なアナトミー 根管の構造と機能に基づく実践歯内治療
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 つぎに若手の担当した抜髄例を示す.死腔が発現しても無症状に経過後,8年4か月には耐え難い自覚症状を訴えることになった.死腔の処置としての根管治療を筆者が施すこととなり,治療してある歯の再治療がなぜ必要になったかの説明を求められた(図5).さらに激痛と歯の動揺のため抜歯を患者から強く指示された.本例は根管充填の根尖到達度が3mm不足し,8年後に歯根嚢胞様の根尖病変を伴う急性症状が現れている.担当医のカルテに電気的根管長測定(Endodontic meter-S)では23.0mm,拡大は♯60とあり,根管充填操作で死腔を残す初歩的ミスがあったものと思われる. 抜髄直後にFC貼薬,酸化亜鉛ユージノールセメントで仮封を実施されていた.その次回根充例(ガッタパーチャポイント+キャナルス®)で,仮封は40日間の長期であった.仮封漏れによる唾液汚染が加わっていた可能性も十分考えられる. 大森らの実験(in vivo)では31か月で根尖肉芽腫,慢性膿瘍が成立する事実から,侵入肉芽組織の壊死化に細菌性の病原性因子が26歳の根尖歯周組織を傷害し,上皮の増殖を伴う歯根嚢胞化の原因になったとも考えられる.11−2 臨床例による考察図5 症例:3,抜髄時26歳,男性a:3麻酔抜髄,次回根充43日後のエックス線写真.矢印部が根尖,約3mmの死腔の存在(不足根充).b:38年3か月後のエックス線写真.4は感染根管1回治療直後(34歳),4を含む大きな類円形透過像と3歯根膜腔の拡大,訴えがないため観察のみ.c:bの50日後3に起因する広範囲の歯肉の炎症所見.歯の動揺は,5M3>4M2〜3>3M2,垂直打診は3+,3の歯周ポケット口蓋側10mm.d:3の感染根管治療を開始し,39日目にガッタパーチャポイント+キャナルスN®で加圧根充.e:3根充17か月時.根尖病変は消失と骨の再形成がみられる.f:3の治療途中の根管内滲出液から得た細胞診とギムザ塗抹標本で上皮細胞の存在,右上はコレステリン結晶の偏光顕微像で,歯根嚢胞の臨床診断に役立つ. 抜髄後の根管内死腔が生体に及ぼす影響bdecfaPART2 治療編162

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