インプラント武者修行
8/8

79第三章 新たな躍進と開発への挑戦せる音楽に聴き入って、自分の感情を落ち着かせ、絶対に成し遂げることができると自分に暗示をかけました。発表内容を繰り返しイメージするうちに、ふと、ここがドイツであることを改めて考えました。ドイツで行われる大会ということは、参加者は当然ドイツ人が多いはずということに気づいたのです。会場で見ている人たちから高く評価され、大きな拍手をもらわなければならない。私はベートーベンのドイツ音楽に包まれながら、右手を振りかざしたオーバーアクションで、あえてドイツ語っぽく堅い英語の演説風発表にしたらどうかと思い立ちました。あくまで演出ですがドイツ人を味方につけよう。右手に何を持とうか。「あっ、ペンを持とう。」私はたまたまドイツに持参していた万年筆がカバンに入っていたのを思い出しました。 やがて、私の一つ前の発表者が終わりに近づいたことを目認し、彼が壇上から降りる頃合いを見計らって、私は会場入りし演壇に近づきました。壇上から降りてきた彼は「震えが止まらなかった。」と言って苦笑いをしていました。私はそれを聞いたら少し緊張がほぐれましたが、「ぼくもだよ。」と言って演壇に上がりました。 壇上に上がるとまず会場全体を見渡しました。数千人の聴衆が私を見つめているはずなのですが、私に浴びせられる強いライトの光で、正直なところ、前列三列目の人たちしか目に入りませんでした。今から思えばたったの八分間の発表でも、その時点までコネチカット大学で四〇人の医局員を相手にマイクの助けを借りて発表したのが最大で、日本ではセミナーをやるにしても二〇人程度が常でした。私にとって、いきなり数千人を対象に発表

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る