インプラント武者修行
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48マナ板を打つ手を休めると、台所の窓からこちらを伺い、兄と同じく、反省するまで外に座らせておくいつものパターンでした。 私は、一度お袋さんが私を確認した後、そっと、立ち上がって、忍び足で診療所の玄関へ回り込み、待合室を通過しつつ、患者さんから「あら、ゆきひさ君!」「あっ! こんちは!」と軽く会釈しながら、診療室にいったん入り、親父さんとスタッフの方たちがあくせく診療に追われているのを横目に内扉から家の中に侵入し、階段をそっと昇って子供部屋の二段ベッドの梯子を昇って隠れたりする悪い次男でした。 最初はお袋さんをちょっとびっくりさせるつもりでそのようにしたのですが、缶蹴りの鬼が長かったせいか、知らぬ間に眠りについてしまいました。一方、お袋さんは、しょうがないな、そろそろ開けてやるか、と台所の窓から玄関の外を覗き込んでも、私が見えず、あれ!? と慌てて玄関を開けて外を捜しても私がいなくなっていて。 すでに外は真っ暗。奥多摩の夜は、ポツリポツリとした街灯の薄ら灯りだけなので、お袋さんは私が行きそうな友達の家に電話しても、どこへも来ていないと言われて慌てふためいていました。あげくに、警察署に行き、警察が総動員で山や川原を徹底捜索することにまでなってしまったのでした。親父さんやスタッフの方に話しても、「んん〜〜ん、知らな〜いと。」皆首をひねるばかりで、私がすり抜けて行ったことなどまったく気がついておらず。私は二段ベッドの上で寝ているから、誰もわからなかったわけです。警察は山や川原、学校へも行ったが手がかりなし、ということで、皆途方に暮れてしまいました。と、

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