顎変形症治療の基礎知識
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ceabdこれは歯が口唇と舌の圧力のバランスのとれたところに位置することが多いためである.その結果,上下顎の不調和の程度に比べ,上下顎前歯関係の異常(下顎前突の場合,多くは反対咬合)は軽度に見えることが多い.上顎前突の場合は逆に,上顎前歯が後方に(舌側傾斜),下顎前歯は前方に傾く(唇側傾斜)傾向にある.しかし,上顎前突の場合は口唇閉鎖が不完全なことが多いことから,上唇からの圧力が小さく,上顎前歯が唇側傾斜していることもある.同様のデンタルコンペンセーションは臼歯部でも水平的(頬舌的)に起こる.22.1.2 叢生歯列の凸凹(叢生)は歯の大きさに比べ顎骨が小さいことにより起こる.叢生を解消するには,抜歯を行わず歯列を前後左右に拡大する方法と,抜歯により歯列を揃えるスペースを得る方法がある(FIG 3).抜歯を行う場合は前歯歯軸の改善が可能であるが,拡大した場合は前歯が唇側傾斜することが多い.22.1.3 叢生の解消と抜歯外科的矯正治療では,顎矯正手術により上下顎の顎骨関係が改善するので,術前矯正治療で顎骨に対してデンタルコンペンセーションを解消し,標準的な前歯の傾きに近づけることが図られる(デンタルディコンペンセーPART 4   矯正歯科の役割FIG 3 叢生(凸凹)を治す2つの方法.叢生(a)は,歯の大きさが歯槽骨に比べて大きい場合に生じる.叢生を治すには,歯列を拡大する方法(b,c)と,抜歯により空隙を得る方法(d,e)がある.通常,歯列を拡大すると,前歯は唇側(前)に傾き,大臼歯の間の幅が広くなる(c).FIG 2 デンタルコンペンセーション(dental compensation,歯性補償).上下顎関係の異常があると,口唇と舌からの力により,下顎前突では上顎前歯は前方(唇側)に,下顎前歯は後方(舌側)に傾斜する.一般に術前矯正治療では,前歯歯軸を標準的な歯軸に近づける (デンタルディコンペンセーション dental decompensation).下顎前突 (骨格性Ⅲ級):標準的な上・下顎骨に対する歯軸歯列拡大小臼歯抜歯唇側傾斜舌側傾斜ション dental decompensation).日本人に多い下顎前突では,上顎の小臼歯抜去を行い,その空隙を使って上顎前歯を後方に傾斜させて歯の傾きを改善することが一般的である.一方,下顎はデンタルコンペンセーションにより舌側傾斜していることが多いため,本来の歯の傾きに戻すとスペースに余裕ができるので下顎の歯は抜去75

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