咬合の岳をゆく
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a図1a〜c 矯正歯科治療の既往があり,咀嚼障害を訴えていた.咬合再構成によって咀嚼障害が解消した症例(P.133参照).11bc 近年の審美歯科補綴では,術者の理想的な歯冠形態や歯列形態が画一化され,左右対称の歯冠形態や歯列形態に造形されている偏重した症例をよく目にする.形態は機能を表現して,機能は形態を表現するとして“よい形態はよい機能を生み,よい機能はよい形態を生む”とする考え方も流布しており,これもまた左右対称の形態が造形されている一因であろう. しかしながら,個体差が著しいヒトにとって左右対称の歯冠形態や歯列形態が「よい咬合」へのルートとは限らない.術者がいくら理想的な治癒像を描いても,その咬合が患者に適宜・適応しなければ「術者本位の咬合」となり,「よい咬合」である山頂にたどり着くことができない. 術者が提案する左右対称の形態を受諾した患者であっても,その形態によって形作られた咬合が口腔内および顎口腔系に適宜・適応しているかを必ず評価し,それに応じて修正を加えていく試行錯誤が必要であることを忘れてはならない.患者にとっての「よい咬合」は,“よい形態”だけではなく“よい機能”も必要不可欠だからである. 歯質欠損や歯列欠損,咬合異常など,さまざまな原因を取り除くことによって最終的に顎間関係が決定される.最適な顎間関係での咬合が保持されることで,口腔内ならびに顎口腔系の正常化・健全化を保持することができる.したがって,顎間関係を確定する咬頭嵌合位へのアプローチが「よい咬合」にたどり着く最短のコースであると言えよう. 翻って,「患者本位の咬合」を見つけ出すうえで,咬合を直接眼で捉えることができないことが最大の難関である.それゆえに,術者が与えた咬合が「機能的正常咬合」なのか,あるいは「機能的不正咬合」なのかという評価も必要不可欠となる.ヒトにとって,食物を粉砕する,食塊形成を営む咬頭嵌合位こそがもっとも重要な咬合位であり,「よい咬合」の規準位(コンパス)なのである.咬合再構成を施す症例では,治療前後での咬頭嵌合位の咀嚼機能を評価することで「よい咬合」にたどり着けたかを認識しなければならない. 「患者本位の咬合」を求めて,咬頭嵌合位を規準位とした「機能的正常咬合」を見つけ出すルートこそが「よい咬合」に登頂できると言える.60「患者本位の咬合」の道標を見つけ出していく「患者本位の咬合」を見つけ出すアプローチ

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