図9 過剰な力での縫合は,縫合糸により斜線部の歯肉弁の虚血を招来してしまう.これは手指の感覚に頼った縫合で起こりやすい.締め付け過ぎに注意 Phase1〜2の期間に創部の一次閉鎖が達成されるためには「確実な縫合」が必須となる.ここで「確実な縫合」とは単にしっかりと縫合するということを意味するものではない.手指感覚で“しっかり”結んでしまうとどうしても強く結びがちで,縫合というよりは結紮に近く,縫合線をいわば絞扼してしまうことになり,術後の同部の虚血壊死につながり創部の裂開を招来する. 筆者のいうところの確実な縫合とは,フラップどうしを必要最小限のテンションで接合させるような縫合を意味するものである(図9,10).Burkhardt & Lang20, 21は,インプラント埋入手術時に,フラップに縫合のテンションの強さが創部の裂開にどの程度影響するのかを研究している.それによれば,術後1週で裂開が起こらないようにするには接合縫合は0.1N(約10g)以下が望ましいとしている.これは,鋭利に切開された創縁を緊密に適合させ,細い縫合糸を使用することにより達成されるとしている. さらに,縫合のテンションと組織の損傷について■縫合における注意点の彼らの研究では,7−0などの細い糸の扱いには手指感覚よりもむしろ視覚的なコントロールが必要とされると述べている.視覚的なコントロールのためには,ルーペやマイクロスコープによる創部の仔細な観察と拡大下での適切なハンドリングが有効であることはいうまでもない(図11,12). 歯周組織再生療法や歯周形成外科に使用する縫合糸は,ナイロンのモノフィラメントがよく使用される.この縫合糸は滑りやすく,術後の結節の保持に糸の摩擦を増すため2回撚りをつけた2重−2重のこま結び(English surgeon’s knot)が歯肉の張力に対して必要となる.テンションフリーの縫合では,2nd knotの際に外表面に平行に左右均等な力で糸を引きながら正しいこま結びを完成させる.こま結びの終了を確認するには,手指の感覚ではなく拡大下での視覚的コントロールが必要となる.正しい撚りで作られたEnglish surgeon’s knotではナイロン糸のもつメモリー(包装してあった元の状態に戻る性質)により,術後その結節は維持される.38Flap stabilization達成のための縫合3
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