咬合の謎を解く!
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第1の謎 なぜ,美しく整った形態が正常咬合と言えるのか?補綴歯科治療と矯正歯科治療は咬合の指標が同じでよいのか?4 ◆補綴歯科治療と矯正歯科治療では,咬合のゴールが同じとは限らない!名探偵ナカムラの眼第1の謎を解くカギ◆補綴歯科治療では,機能障害を 解消した咬合が正常咬合となる!◆矯正歯科治療では, 心理的に問題のある形態を 改善した咬合が正常咬合となる! 歯科補綴学や歯科矯正学において,解剖学的,形態学的に正常とする咬合と機能との関係についての疫学的な研究や調査は一切見当たらない.また,歯科補綴学における正常有歯顎者や健常有歯顎者といわれる被験者をもってしても,その条件は「正常咬合を有する」ではなく「著しい不正咬合が認められない」であり,整然とした歯列形態が成立すれば正常な機能を営んでいるとするには科学的根拠に乏しく,あくまでも対象研究のコントロール群(対照群)としての条件設定の一つに過ぎない.解剖学的,形態学的に整ってさえいれば,機能も正常に営むであろうとした見解は,その整合性がとれていないのが現状なのである.したがって,「不正咬合はかみ合わせが悪い」とする短絡的な考え方は見切るべきであろう. 石原ら(1972)10は,心情的に不快な歯列状態や咬合状態であっても習慣的に生理的な機能は十分に遂行されており,反対に機能的に何の障害もなく美容上の要求だけで咬合治療を施行するのであれば,生理学的立場からは機能について十分に検査することが必要であると喚起している.術者が考える理想的な咬合を与えれば,機能も正常に営まれるとするのは,ドグマ(それほどの根拠もなく,ただちに自己の判断を下すこと)であると言わざるを得ない. 機能を営むこと,とくに生命維持のための咀嚼,嚥下の能力は,咬合状態,歯周組織,舌,頬,口唇,咀嚼筋,顔面頭蓋部の筋,神経,唾液腺,顎関節による総合的な働きによるものであり,それぞれの器官が互いに影響し合っている.したがって,歯列や咬合が美しく整った形態を有しても,そのほかの器官と調和し,協調活動しなければ機能は回復していないことになる.19POINT

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