咬合の謎を解く!
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◆歯科補綴学では,正常咬合を定義していない!名探偵ナカムラの眼歯科補綴学からみた正常咬合とは?1 正常咬合と言えば,Hellman(1921)1とFriel(1927)2の説が有名である.両者は永久歯列における正常咬合の要件を,上下顎32歯が138か所で咬合接触し,前歯部では面接触,臼歯部では1歯対2歯の関係で咬頭頂と窩,隆線と歯間鼓形空隙,隆線と溝が接触するとした.  多くの補綴臨床では,このような咬合接触が正常咬合の評価基準として恒常的に用いられており,その結果として咬合再構成の口腔内には左右対称性の美しい歯列・歯冠形態が形成されることになる. この説を正常咬合の要件とするならば,真柳(1997)3は補綴学的観点から次のような問題点を挙げている.①正常咬合は異常咬合と相反することから,異常咬合の意義によって正常咬合の定義が変容する.②定義された咬合状態が解剖学的,形態学的に正常であるとの検証はなされていない.③この定義は解剖学的,形態学的な観点からだけであり,機能的にも正常であるとの検証はなされていない.正常咬合の定義の起源は1920年代と相当古く,前記の問題点が指摘されるように,今の時代にそぐわなくなったことは否めない.補綴歯科治療の目的は形態や外観の回復だけではなく,機能の回復が主要なのである. 歯科補綴学では,正常咬合におけるこれらの問題を解決することを目的に,咬合関係のみならず顎口腔系や機能からみた統合的な研究はまったく見当たらない.近年の日本補綴歯科学会誌においても,正常咬合をキーワードとする論文は10題程度しか検索できず,それら論文のすべてで正常咬合となる要件や定義に関する論述はみられない.2002年に発行された『異常咬合の診療ガイドライン』4でも正常咬合は示されてはいない.また,歯科補綴学専門用語集においても定義はされていない.したがって,日本補綴歯科学会では正常咬合を定義していない.また,歯科補綴学の教科書とされるクラウンブリッジ補綴学や無歯顎補綴治療学においても,正常咬合についての記述はない5,6.16正常咬合の本当の意味を知っているか?1POINT

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